「……何でしょうか」


少し上にある橘さんを見上げると、もうひとなでされてから頭から手を離された。


「そんな目で見るな。それに、同い年なんだから敬語もいらないだろう?」
「駄目ですよ!杏ちゃんのお兄さんなんですから、タメ口なんてできません!」


それに何より、橘さんにタメ口なんてきいたら、不動峰のメンバーに殺される……!(ガタブル)


「だが   
「できません!」


これだけは譲れない!

きっぱりと目を見て言い切ると、橘さんはようやく諦めたようにため息をついた(勝った!)


「別にいいのに……」
「私が嫌なの。友達のお兄さんには、やっぱり敬意を払わなきゃ」


攫いたいほど可愛い表情で杏ちゃんが呟くけど、こればっかりはね……。
私もすでに癖になってるし。


「そんなものかしら?」
「うん」


そういうことにしておこう(待て)


大真面目にうなずいておいて、とりあえずその問題は解決させておく。

それから橘さんの作ったサンドイッチ(小腹が空いたので作ったらしい)を少し食べて(非常においしかった)、杏ちゃんの部屋で色々しゃべって。
お茶が入ったからって橘さんに呼ばれてリビングに戻った。


「そういえば、ご両親は?」


ご挨拶するのを忘れてたとカップから顔を上げたら、杏ちゃんが小さく肩をすくめる。


「今日は2人で外食してくるって。だから今夜は、兄さんが料理するのよ」


そうですか、子供をほっといてデートですか……。
仲のいい夫婦はうらやましいね   って、それより。



「杏ちゃんが作るんじゃないんだ……」
「兄さんは料理が趣味なのよ、私よりずっとうまく作れるの」
「杏、それは自慢にならないぞ」



あっけらかんと言った杏ちゃんを、橘さんが苦笑しながら小突く。
それに笑った時、タイミング良く携帯が鳴った。

誰だろ?


「ちょっとすいません」


目礼して断ってから、画面をよく見ずに通話ボタンを押す。
一瞬後には後悔しました、これが間違いでした……!


「は   




っっ!!』




      ン!!





あいたたたたた!
鼓膜が!鼓膜がピンチだヨ!!


ハウリングを起こしてる耳元から、慌てて携帯を遠ざける。


「リョ……リョーマ……」
遅い!!どこで何してんだ!!大体、今何時だと思ってるわけ!?』
「え?何時だっけ」


思わずひょいと訊き返したのが運の尽き。
リョーマの声が一層激しさを増した。


『8時だ、8時!!何考えてんだよ、連絡もしないで!!』


8 時 !?


「ご……ごごごごめ」

『何でもかんでもごめんで済むと思ってるわけ!?』
「ほんとごめん!!」

『俺がどんだけ心配したと思ってんの!?冗談じゃないよ!!』
「ごめんなさい……!」


10cm離してもクリアに聞こえるリョーマの怒声に、必死に謝り倒すこと15分。
ようやく切れた携帯を握りしめ、ぐったりとテーブルに突っ伏した。


「お疲れ様。すごかったわね」
「疲れた……」


苦笑する杏ちゃんに何とか言葉を返し、橘さんが淹れ直してくれた紅茶を一口飲む。


「あああああ、帰ったらまた怒られるうぅぅうぅ……」


絶対絶対リョーマが玄関で仁王立ちして待ってるんだよ。
そんでもって「どこにいたわけ?」とか言って、ぐだぐだぐだぐだお説教されて……。


……ん?


頭をなでられる感覚がしてくるりと首を回したら、橘さんが苦笑していた。


「大変だな。俺達はフォローできないが、頑張れよ」




…………。




「桔平さぁんっ!!」


がばっ!!

涙混じりに抱きついたらものすごく慌てていたけど、そんなことは無視!


「大好き大好き大好き大好き」


優しいよ!仏だよこの人!さすが大仏様だよ!
もういっそ、兄貴と呼ばせてください!


「なっ、ちょ、!!」
「あら、ちゃんが私のお姉さんになるの?」


それもいいかもと呟いている杏ちゃんにかぶりを振って、ぴっと人差し指をたてる。


「ううん、桔平さんが私のお兄さんになるの」


んでもって、毎日頭なでてもらうの。
そう言ったら、杏ちゃんが楽しそうに笑った。


「じゃあ、私のお嫁さんになるのね」


んまあ!(驚)
なんて可愛いことを言ってくれるの、この子は!
でもね、でもね。


「ヤだ」


きぱっと答えたら、ものすごくショックな顔をされた。
その表情も可愛いよ!(変態)


「それなら私が、杏ちゃんをお嫁さんにするもん」


どさくさに紛れて抱きついてみる。
わあい、やっぱり女の子は小さくて柔らかくて気持ちいい!


ちゃん!」


っしゃあ、杏ちゃんとハグ!ハグ!!(落ち着け)


「お前達……」


あれ?橘さんが頭を抱えてる。
……混じりたいのか?
いや、それはないか。


「桔平さんもハグします?」
「いや、いい」


ちぇっ、即答された。


   じゃ、そろそろ帰るね。桔平さん、急にお邪魔してすみません、お茶ごちそうさまでした」


もっといたいのはやまやまだけど、もう帰らないと本気でリョーマが怖い!


「そう……?また来てね、絶対よ」












すごく残念そうな顔で送り出してくれた杏ちゃんちを出て、大急ぎで家に帰ると、予想通りリョーマが鬼のような形相で待ち構えていた。
玄関で。



「お帰り。」
「た……ただいま」



怖い!怖イ!!


「ちょっと」


ぎこちなく靴を脱いで上がった瞬間、リョーマにがっしと腕をつかまれる。
そのままずーるずーると引きずられて、階段を登らされた。


ああ……さようなら、お夕飯……(涙)
今日のメニューはアジの塩焼きだね、おいしそうな匂いがしてくるよ……。


結局その後、奈々子さんが助けに来てくれるまで1時間、ずっと正座で怒られてました……(バタリ)
あ、脚……!脚しびれて動けない……!