「まったく……」


少し苦しそうに呼吸をするの髪を梳いて、小さくため息をついた。

人のことはさんざん心配しておきながら、自分に関しては全然無頓着。
のことを心配してる俺達の身にもなってよ。


さて、冷えピタは貼ったし、は寝てるし。
雑誌でも読んでいようかと、テニスバックをあさった。
突っ込んだままになっていたテニス雑誌を取り出して、何となく眺めてみる。


聞こえるのは静かな寝息だけで、がうちに来てからこんなに静かなのは初めてだと気づいた。
たったそれだけのことが、何故か落ちつかない。




「……変なの」




調子狂うんだよね、こういうの。


はいつだって元気で、こんな風に弱っているところなんて、想像すらしなかった。
馬鹿みたいに明るくて、明るく振る舞って。


そういえば今日はいつもよりも顔が赤かったし、額も汗ばんでいた。
くそっ、何で気づかなかったんだ!?


雑誌の内容なんて、これっぽっちも頭に入ってこない。
いらいらだけがどんどんたまっていって、いても立ってもいられなくなる。


   タオルでも持ってくるか」


そして、もう少ししたら昼飯のおかゆを作ろう。
そう思って立ち上がろうとしたら、軽い抵抗感。


「……ちょっと」


が俺の服をつかんでいた。
それも裾なんて可愛いものじゃなくて、首筋近くの背中。

……まあ、ベッドに寄りかかってた俺も悪いんだけどさ(これじゃ服の裾をつかむなんてことはできっこないし)
ため息をつきそうになった時、聞き逃しそうなささやきが背後から届く。




   お、かあさ   




不意に呟かれたその言葉が、聞こえた。
聞いてしまった。

思わず振り返ったのが、また悪かった。


「……泣いてるなんて反則だろ」


何で、起きてる時とは違って、そんなにひっそり泣くんだよ。
いつもはあんなにうるさく泣くくせに。


つらい体制だけど、なんとか手を伸ばして涙をぬぐう。


「……か……さ……」
「ここにいるから」


服をつかんでいる手を振りほどくと、がさらに泣きそうになった。
その手を握りなおして、小さく呟く。




「俺がずっと、ここにいるから」




あんたの母親の代わりにはなれないけど、それでも。


「いかないで」
「いかないよ」
「ほんとに……?」


……本当に寝てるわけ?こいつ。
でも確かに寝てるっぽいし、第一起きているが、こんなセリフ言えるわけがない(言ってから顔を赤くして騒ぎながら転がるにきまってる)

十中八九寝ているんだろう、多分。


そこまで考えてから、ちょっとした悪戯を思いついた。
の耳元に顔を近づけて、できるだけ低い声でささやく。


「一緒に寝てやるから」


起きているなら、真っ赤になって飛び起きるだろう。
そう思ったのに。


「うん」


ちょっと安心したように、が小さく笑うから。
逆に自分の顔が赤くなるのを感じながら、隣に潜り込んで小さな頭を抱きしめた。

安心しきったようにすり寄ってくるは、柔らかくていい匂いがして。
一瞬頭が真っ白になったけれど、そのうち俺まで眠ってしまった。

最近は練習づくしで疲れていたから、心地よい眠り   のはずだった。




「あ   もがっ!




嫌というほど聞き慣れた、うるさい声が騒ぐまでは。


「……何でいるんスか」


レギュラー+1が、全員で。


「もがもがもがががもがももっ!!」
「英二、少し静かにしようね」


黒い笑みで念を押してから、不二先輩が英二先輩の口をふさいでいた手を離した。


「やあ。インターホンを押しても返事がないし、鍵まで開いてたから、悪いと思ったけど上がらせてもらったよ」
「……あっそ」


……何かもう、この人達に何を言っても無駄なんだろう。


   俺達は止めたぞ、一応」


じとりと部長を見ると、視線をそらしながら気まずそうにそう言った。
海堂先輩も目をそらしている。
大石先輩は   英二先輩の世話をやいてて、それどころじゃないか。


「おチビずるいーっ!俺もちゃんにぎゅってしたい!!」
「しーっ!!英二、静かにしないか!」


大石先輩が必死に叱っているけど……効果はないか、当たり前だな。


「さて、と。越前は動けないから   俺達でとりあえず家事を分担するか」


部屋を見回してはしきりにノートに何かを書きこんでいた乾先輩が、満足したのかノートを閉じてそう言った。


「英二、おかゆは作れるか?」
「もち!」
「じゃあ、英二は食事だな。さっき見たら材料が全く残っていなかったから……そうだな、桃とタカさん、それから不二も買い出しに行ってくれ」
「了解」


軽く手を上げて、不二先輩が2人と出て行く。
残された部長達は、何だか居心地が悪そうだ。


「乾、俺達は何をすればいいんだ?」
「ああ、今のところは休んでいて構わない。どうせ後で忙しくなるから」


大石先輩にあっさりと答えると、乾先輩はノート片手に部屋を出ていった。
……まさか、他の部屋も調べるつもりか?


部長はの机の上にあった何かの参考書を見て、大石先輩と何かを小声で話しているし、海堂先輩はひどく居心地悪そうに部屋の隅にいる。
誰にしろ、俺の話し相手にはなってくれないらしい。


……暇だ……。
、早く起きてくれよ。