「あ、起きた」




目を開けると、笑みを含んだ柔らかい声がした。


……菜々子さんでもおばさんでもない、男の声。
聞き覚えはある気がするんだけれど……誰だ?
まあいいか、それより眠い。


腕に抱いている枕があったかくて柔らかくて気持ちよくて、もう一回ぎゅっとして顔をうずめ、眠ろうとする。


正確には、眠ろうとした。
枕がもぞもぞ動くまでは。


「…………?」


どうして枕が動くんだ?
というか、頭の下にあるこれは枕じゃないのか?

薄目を開けて「枕」を見てみた私は、そこで一気に目が覚めた。




「……っ!?なっ!!なななななんで   




何で私はリョーマを抱き枕にしてるわけ!?


「……おはよ」


頬をちょっぴり赤くして、拗ねたように(絶対照れてるんだけど)リョーマが私を見上げる。




か わ い い ……!!(上目遣いは反則……!)




混乱しつつもキュンキュンしていると、先程と同じ声がした。


「完全に目が覚めたみたいだね」


くすくすと笑っている声の主は、我らがフジコ様だった。


「僕達が来た時には、もうその状態だったよ」


からかいを含んだ声でそう言われて、慌ててリョーマを離す。
この様子だと起きていたみたいだし、からかわれたのは確実だろう。


「ごめっ!!」
「……いいけどね、別に」


ひょいと起き上がってベッドから降りながら、リョーマは小さく肩をすくめた。
その耳がほんの少し赤かったのは、見なかったことにしておこう。

リョーマと入れ替わりで、部長がベッドに近づいてきた。
眉間のしわが当社比2倍。


やっべ、怒られる!


反射的にぎゅっと目をつむると、ほてった頬に少しひんやりとした手が押し当てられた。


「……え?」
「まだ熱いな。起き上がれるか?」


あ、なるほど。

これが心配している顔なのか。
学習学習。


「うーん……多分」


部長は熱いって言ってたけど、気分はずいぶんよくなってるんだよね。
吐き気もしないし(寝る直前は吐き気が強すぎて、本当にどうしようかと思った)


さん、水だよ。飲める?」


タカさんがお水を持ってきてくれた。
氷がちょっと溶けて、コップが汗をかいている。
多分、私が起きたから作ってきてくれたんだろう。


「うん。喉からから」


優しさを見にしみて感じながら起き上がろうとしたら、部長が背中に手を当ててアシストしてくれた。
実はうまく力が入らなかったから、かなり助かる。
ぼんやりとした頭で、それでも自然に顔がゆるんだ。


「ありがとう」


2人にお礼を言って、冷たい水を注意しながら飲む。
汗としてずいぶん失われてしまった水分が、身体中にしみわっていく。

そこまで考えて初めて、自分が汗だくだということに気づいた。


……まずい。


「リョーマ」


向こうで桃とじゃれていたリョーマを手招きして、こちらに呼び寄せる。
素直に近づいてきたリョーマと、ついでに近くにいた部長にもちょいちょいと指で手招き。
隣り合って並んでくれた2人の額に、同時に手を押し当てた。


「な   っ!?」


部長がものっそい驚いていたけど、とりあえずスルー。
うーん……リョーマの方が、熱い……かな?


「リョーマ、あんたシャワー浴びて薬飲んどいで。ちょっと体温高いよ」
「平気だって」
「私の汗でべとべとして、気持ち悪いでしょ?シャワーだけでも浴びてきて」


ごめんねと謝ると、リョーマは一瞬虚を突かれたような表情になって、それから素直にうなずいた。


「行ってらっしゃい」


ひらひらと手を振って、リョーマを送り出す。
軽い足音が階段を下りて行くのを聞きながら、さてどうしようと考えた。


多分シャワー程度だったら   5分くらいで帰ってくるかな。
きっと頭乾かしてこないだろうから……。


「タカさん、そこの引き出しからドライヤー出してくれる?」
「え?あ、うん」


いきなり言われたタカさんは、開けていいのか戸惑ったみたいだった。
いいから開けてと笑って、おっかなびっくり取り出してくれたタカさんから、リョーマ専用になっているドライヤーを受け取る。

コンセントに差して、デンマンを用意して。


「……それ、越前のためのもんスか?」
「うん」


微妙に複雑な表情の桃にうなずく。


「なんか慣れてるみたいですけど……いつもやってるんスか?」
「いや?」


いつもやってはいないけどさ。