さて」


ついにこの日がやってきた。


「地区予選   か」


橘さんとか杏ちゃんとか、不動峰のみんなに会ったら、一体どんな顔をされるだろうか。
青学だということで(いや、別に生徒じゃないんだけど)嫌われないといいなあ……。

うとうとしながらそんなことを考えていたら、布団越しにぽすぽすと叩かれた。


、起きて」
「ん   
「起きてってば」


ゆさゆさと揺さぶられて、まだベッドでごろごろしていたいと寝返りをうつ。


「いい加減起きてよ。遅刻するだろ」
「やー……」
「ヤじゃなくて。   襲うよ?」
「心の底から勘弁してください」


にやりと笑って言われた言葉に、即座に目を開く。

5つも年下に襲われるなんて恥だ!
どうせならこっちから襲ってやる!!(そっちかよ)


「Good morning」


意地悪く笑ったリョーマが、少しだけ残念そうに口を尖らせながら私を見下ろしている。
体勢的に仕方がないことだとはいえ、ちみっちゃい子にそうされると、何だかむかつく。


……いや、リョーマだからむかつくのか。
ジロちゃんにやられても全然むかつかないもんな、うん。

これが生意気っ子の技かと感心しつつ、ぐいと伸びをする。


「……Good morning、リョーマ」


さっさと起き上がって顔を洗いに行こうとしたら、がっしりとつかまってしまった。
輝かんばかりの笑顔で、リョーマが迫ってくる。


。何か忘れてない?」
「ナニモワスレテマセン」
「嘘つき」


冷や汗だらだらでしらを切ってみたけれど、リョーマの前では無駄だった……。


「絶対やだ!!」
「駄々こねないで。ほら」


ちょんと突き出された顔。
冷や汗がだらだらと流れる錯覚がする。


……もう逃げられねえ……!(ちくしょう!)


恥を忍んで、リョーマの頬に軽くキスをする。
こっちに来て少ししてから、毎日のようにリョーマが要求するようになった、おはようの挨拶。


「よくできました」


満足そうなリョーマに、ぽんぽんと頭をなでられる。
……いじめだ!(うわーん!)


「じゃ、早く準備してきてね」
「ちょっと待った。私、決勝しか行く気ないからね」


一緒に行く気満々のリョーマに、ぴっと手をあげて主張した。


はっきり言って今回の大会、不動峰との一戦しか興味はない。
そんなにテニスに興味があるわけでもないし、ルールもよく知らないこの状況で、長々と何試合も見るのは厳しいものがあった。




「却下。」




即答かよ!(可愛くねえ!!)




「ってなわけで。菜々子さん、あとよろしく」
「ええ!」
待て待て待て!リョーマ、何させる気!?」


嫌な予感がする、ものすごく嫌な予感がする!


「さ、さん。こっちこっち」
「え、あ、ちょっ……待てってば   !!」


非常に楽しそうな菜々子さんに、何故か部屋に引っ張り込まれて、あれやこれやいっぱいやられて。


「へえ………行くよ」


待ち構えていたリョーマに、朝ご飯を食べる暇すら与えられずに連れて行かれましたとさ。
急かされて走っている最中にふと腕時計を見て、そのありえない時間に死ぬほど驚いた。


「馬鹿リョーマ!あんた、私を起こしたりしてる暇なんかなかったんじゃない!!私に合わせないでいいから、早く行きな!」
「馬鹿、一人で来れるのかよ!」
「何とかするから!!失格になりたいの!?」


いいからさっさと行きやがれ!!


思いっきり睨むと、リョーマは一瞬迷ったように私を見た後、ぐんとスピードを上げた。
それを見届けてから、私の方はスピードをゆるめる。


疲 れ た …… !!(死ぬ……!)


大体、リョーマと一緒に走ること自体が無謀なのだ。
文化系受験生の体力のなさをみくびらないでほしい。

しばらくぜえはあと息を整え、今度はのんびりとバス停に向かう。
会場に着いたら、そこからは人に訊きつつ行けばいいだろう。


「あ、差し入れ買って行こうかなあ」


途中から雨が降るとはいえ、焼けつくようなこの暑さ。
気を抜くと熱中症になりそうだ。
全部員分は無理にしても、せめて身近なレギュラー達の分くらいは買って行きたい。


「……向こうに着いてからの方が、冷えたまんまでいいかなあ。でも、ビニール袋ないとつらいし……」


よし、買ってからバスに乗ろう。
今更少し遅れたくらいで、何の変わりもないだろう。