「おはよ、みんな」
「おっはよー!」


英二のタックルを、今日はあえて受けてみる。
頑張れよという、自分なりのエールのつもりだ。
倒れそうになったところは、乾がちゃんと支えてくれた。


「ありがと」
「いや、ある程度予測できていたからな」
「……データマンめ」


くそう、と呟くと、逆光でにやりと笑われた(ヒィ!)(怖い!)


さん、何スかそれ?」


さすがといったところだろうか。
手にぶら下げたコンビニ袋にいち早く気づいた桃が、期待に満ちたような顔で首を傾げる。


「レギュラーのみんなに差し入れ!あ、もちろん、先生と乾君にもね」
「いいのかい?悪いなあ」
「いいのいいの、いつもリョーマがお世話になってるんだから」


タカさんが申し訳なさそうに眉根を寄せているけれど、この後君の家はものすごい損失を受けるんだよ……。


いくら打ち上げだっていっても、あれは遠慮がなさすぎる。
豪快に笑って済ませてしまうタカさんのお父さん、かなりの大物だ。


「人数分しか買ってないから、どれ取るかは早い者勝ちだよー」


そう言った瞬間、すさまじい争奪戦になった。




「うわっ……!」




思わず袋を手放しても、誰かが素早くナイスキャッチ。
ついでにバランスを崩した私の方は、フジコがナイスキャッチ。


「……どうも」
「どういたしまして。僕は別に、何でもいいしね」
「うん、外れもないしね」


部長とフジコと3人でのんびりと観戦をして、それぞれの取り分が決まったところで一歩下がる。


「それじゃあ、私はあっちで見てるね」


天気予報もきっちりと見て、日傘も雨傘も完備済みだ。
これで、どの試合も心配なく観戦できるだろう。

青学サイドの席に座って、不動峰の方を見る。
……せいぜい偵察と思しき生徒がちらほらといるだけで、応援にきている人がほとんどいなかった。


どちらも友達なんだから、本当は今回は応援の少ない方に行きたい(どうせ両方都大会に行けるんだし)
だけど、青学のみんなが怖くて、とても実行できません……。


「ザ ベストオブ ワンセットマッチ、青学対不動峰!」


審判の声がコートに響き、D2の試合が始まった。
息がつまるようなラリーの応酬。
パワータイプのタカさんと石田君は似ているから、その点で青学側が押されることはないんだけれど……。


「不動峰は今、波に乗ってるからなあ……」


なんてったって、やっと自分達のテニスができるのだ。
……橘さんが引退した後はどうなるんだろうという不安は、あえて考えないでおこう。
それを言い出すと、青学も同じようなものだし。

そんなことを考えていたら、いきなり背後から低い声がした。


「このゲーム、初戦は絶対に落とせない」

「うわあっ!?」


い、いいい乾!!
いつの間にきたんだコンチクショウ!


、頼むからこっちに来てくれないか?」
「どうして?」


ばっくんばっくんいっている心臓をなだめながら首を傾げると、乾はため息をついて眼鏡を押し上げた。


「英二がうるさくてね。いい加減、手塚が切れそうなんだ」
「行かせていただきます」


即答。


だって、こんなところで(しかもそんなくだらない理由で)青学の恥をさらすわけにはいかない!
(一応)名門でしょ、あんたら!


仕方がないので乾についていったら、確かに英二がにゃーにゃー騒いでいた。


「何でちゃんがこっちこないんだよー!!」
「英二、それはもう5回くらい聞いたから……」


マザーが胃の痛そうな表情でげんなりと呟く。
今日も苦労しているな……。
うるさい英二を必死でなだめているマザーの向こうには、いつもより眉間の皺が多い部長(ヤバイ!)


   とりあえず。




「うるさい。」




英二の頭をはたいて黙らせておこう。


「いって!   って、ちゃん!」
「来てあげたからお黙んなさい。恥をさらす気?」


喜色満面で振り向いた英二に、群がっているギャラリーを指してみせる。
途端にしょんぼりするところは可愛いんだけれど……。


「わかればよろしい。   不二君達、苦戦してるね」
「ああ」


部長がうなずいたその時、フジコが動いた。
   出る!


「不二の三つの返し技の一つ、つばめ返し」


乾が冷静に解説しているけれど……実際に見ると本当にすごい!
理屈は知ってるけど、知ってるけどさ、本当に打球が弾まないよ!!(落ち着け)


これはきっと、フジコがいっぱいいっぱい練習をして手に入れたもの。
けれど   


「そんなことしちゃうから、天才なんて呼ばれるんだよ……」


小さく呟くと、英二が困ったように笑った。


「俺達はテニスが好きで、強くなりたいから練習してるだけなんだけどね。みんな、不二が練習してるの知らないから……」
「まあね……。リョーマだってあんなに頑張ってるんだし、努力なしにうまくなる人なんていないのにね」


フジコのつばめ返しで、青学に風が向いてきた。
みんながこれ以上ないほどに興奮している。


   だけど、ね。




「何だ、あの構え!?」




石田君の身体がぐんと沈んで。


   波動球)


石田君のガットが切れるのが見えた。
フジコが受けようと構えて、けれどその前にタカさんが飛び出して。




   棄権します」




フジコの声が、コートに落ちた。