「 」
「やあ、やっぱり来たね。あの約束だよね」
静けさが支配する闇の中、は小さく微笑んでハウルを招き入れた。
腕を組んでたたずむハウルに苦笑して、すいと椅子を示す。
「座ってよ。ずっと仁王立ちしてるつもり?」
「……ありがとう」
戸惑いかためらいか、どちらともとれる間の後に、ハウルが深く椅子に腰掛けた。
それを確認したが、突然胸元をくつろげ始める。
「!?何を 」
「もう、皆そんな反応をするんだよねえ。いいから見てて」
なだめるように苦笑したは、ハウルの声を無視して手を動かし続ける。
見る間に顔を赤くしていくハウルに、内心可愛いなあと思っているのは、もちろん秘密だ。
そのまま胸の上半分が見える位置までくつろげると、さらに真ん中を引き下げた。
「 これが、ラピスラズリ。私の半身」
「……これ?」
これと言われても、ハウルには滑らかな肌しか見えない。
薄暗い室内も相成って、目をすがめても何もわからなかった。
そんな彼の様子を見たが、そっと胸の中央に手を当てる。
途端、ハウルが息を飲んだ。
「 っ!」
家紋などとは全く違う、不思議な模様が光っている。
彼女の胸元で、内側から輝くように。
「私は彼のおかげで生きている。彼のおかげで、こうやってここに在る。 ハウル、君を守ることもできる」
穏やかに目を細めたは、愛しげにその模様を指でなでた。
それはどこか神聖な儀式のようで、ハウルは知らず息を詰める。
そんな彼に、は小さくうなずいた。
「だからハウル、君は君の心のままに動いてほしい。君の星は、きっと平穏に動いていくから」
強くて弱い、愛しい子供。
何があっても、私が君の天蓋となろう。
他人を思いやる優しい心も、戦争を怖がる臆病で繊細な魂も、私はすぐ傍で見てきた。
そんな君が、これ以上震えなくて済むように。
ただ慈しむことしか考えていないようなの瞳に、ハウルはたまらず彼女の腕をつかんだ。
「、僕は 」
「うん?」
「僕、は !」
好きなんだ。
好きなんだ好きなんだ好きなんだ。
この気持ちをどうやって伝えたら、何度伝えたら、君に届くんだろう。
たまらない気持ちを持て余して、ハウルはきつく目を瞑った。
「ねえ、」
「なあに、ハウル」
呼べば答えてくれるのに、君はきっと僕の声には応えてくれない。
それがわかっていて、どうして好きだと言えるだろう。
拒絶されるのは、 怖い。
泣きたくなったハウルの額を、が苦笑して小突いた。
「怖がりハウル、君は君の思うままに行くのがいいんだよ」
何があっても私がいるからと言われ、ハウルは思わず漆黒の瞳をまじまじと見つめる。
「……傍に、いてくれるのかい?」
「もちろん」
ラピスが許す限りはという内心は綺麗に隠し、が安心させるようにうなずく。
そんな彼女をじっと見つめ、ハウルがゆるゆると詰めていた息を吐いた。
傍にいてくれる。
彼女は確かにうなずいた。
ならば 。
「」
手を伸ばして、胸がはだけたままのを引き寄せる。
腕の中にすっぽりと収まった彼女は、柔らかくて甘い匂いがした。
「え、あの、ハウル?」
「傍に、いてくれるんだよね?」
慌てたような声をあげるのうなじに顔を埋めて、ハウルはうっとりと呟いた。
吐息が弱いところをくすぐって、がびくりと反応する。
それすらも愛しくて嬉しくて、腕にこめる力を強くした。
一方、の方はといえば、もう混乱しきりだ。
「ねえ、ちょっと、ハウル!」
「何だい、愛しい人」
「うっわクサい!じゃなくて、落ち着こうそうしよう、ね?」
「僕はものすごく冷静で幸せだよ」
「どう考えても冷静じゃないよ、その表現!」
周りに花が飛んでいそうな口調のハウルに突っ込んで、は頭を抱えたくなった。
どうなっているんだ、一体。
何が起きているんだ。
ハウルはソフィーとくっつくんだろう、そうだろう。
こんなイレギュラー、どう対応したらいいんだ?
ソフィーとくっつくからこそハッピーエンドになるのであって、とくっついてもハッピーエンドになるとは限らない。
いい意味とは限らないねじれを経験するのは久しぶりで、頭がうまく働いてくれなかった。
「ええと、とりあえず……服を直したいから離れようか、ハウル」
「嫌だ」
「こら!!わがままぶっこいてんじゃないの!」
ごすりと背中を拳で殴り、無言で悶絶するハウルから素早く距離をとる。
手際よく衣服の乱れを直しながら、は呆れたように息をついた。
「落ち着きなさいって。まずは戦争を回避する手段を探さなきゃ。でしょ?」
「……僕はそれより、の方が 」
「はーいストップー!戦争の方が大事に決まってるでしょ!というわけで、ちょっと色々考えてみるから、ハウルもあんまり暴れたりしないでね」
ぽすぽすと子供のように頭をなでられ、ハウルは不服そうに目を細める。
けれどの言うことも確かだと(少しだけ)思えたから、口には出さずにうなずいた。
「……ちゃんと返事もおくれよ」
「 そのうちね」
困ったように苦笑したの髪にキスを落としながら、どうやったら彼女を振り向かせることができるだろうと、ハウルはものすごい勢いで頭をフル回転させる。
やんわりと断られたも同然なのに、何故か闇の精霊を呼び出したいとは思わなかった。
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