さて、もう帰ろうか。
けれど、サリマンから言質をとらないことには、ここを立ち去ることはできない。
無表情で悩みながらが考えていると、おもむろにサリマンが顔を上げた。
ようやくリアクションがきたと喜ぶ彼女に向かって、サリマンは杖を突きつける。
「 この国から去りなさい、」
「…………は?」
予想外の言葉に間抜けな声を上げたの目の前で、杖先に魔力が渦巻いていく。
「ちょっと、どうしてそこで私が出てくことになるの!?」
「お黙りなさい。貴女はこの国の障害になるのです」
「そっちが勝手にしてるだけでしょう!」
魔力の気配からすると、これは風属性の魔法だ。
切り裂きのようにかまいたち状のものだろうか。
シールドを張る準備をしながら油断なく身構えるに、サリマンの魔法が襲いかかった。
所詮室内の魔法だと高をくくっていたが、そんなことなど関係ないかのような豪快な放ちっぷりだ。
「うわ……っ!」
受け止めそこねてバランスを崩したに、間髪入れずにもう一撃。
とっさに体勢を整えられず、衝撃に備えて固く目を瞑った。
「 !!」
受けるはずの衝撃はいつまでたっても訪れず、代わりに慣れた香りがふわりと匂う。
何故このタイミングでこいつが来るのだろうと、そろりと目を開けながらは内心首を傾げた。
「何でここにいるの?ハウル。っていうか、今までどこにいたの?」
「危なくなったら助けるって言ったじゃないか。 サリマン先生!になんてことを!!」
「おどきなさい、ハウル。その人はこの国にいてはならない人です」
ぴりぴりした空気を漂わせる師弟を眺めつつ、は小さくため息をついた。
人のことそっちのけで、ずいぶんとシリアスな雰囲気を作ってくれるじゃないか。
別に大丈夫なんだけどな。
サリマンの魔力くらいなら、まともにくらっても2日ちょっと寝れば完全回復するし。
「ハウル、私は大丈夫だよ」
心の底から。
ええ、そりゃあもう。
抱きすくめられた状態ではたはたと腕を叩いて合図をしても、ハウルは一向に離してくれない。
それどころか、さらに力が強くなる始末だ。
「ハウル」
「 嫌だ」
たしなめるように名前を呼んでも、だだっ子のようにかぶりを振るばかり。
困りきってハウルを見上げると、切羽詰まったような真剣な瞳と視線が合った。
「今度は僕が、を守る番だ」
「 あのねえ……」
怖いほどに真剣なハウルとは正反対に、は呆れたように目を細める。
戦うことに怯えている今のハウルに守られるほど、自分は弱くはなかった。
「いいんだよ、まだ無理はしなくて。覚悟は急に決まるものじゃないし、決めるものでもないんだから」
「それでも僕は、今を助けたい」
「……私が助けを求めたら、その時に助けてくれれば充分だよ」
「でもそれじゃあ、はきっといつまでたっても助けなんて求めてくれないだろう?」
思いがけず図星をさされて、は一瞬言葉に詰まった。
その隙を突くように、ハウルは彼女を抱き締めたままふわりと浮かび上がる。
「ごきげんよう、先生。僕はと暮らします」
「こらハウル、何言ってるの!」
「許しませんよ、彼女はこの国に災いをもたらすでしょう」
「あんたも乗るな!ハウルの母親か!!しかも決めつけるな馬鹿!!私よりもハウルの方の心配をするのが筋だろうが!!」
何かもう、が完全に突っ込み役になっていた。
そんな彼女を鮮やかに無視して、師弟は勝手に緊迫した空気を生み出していく。
サリマンが再び魔法を放ち、ハウルが腕を振ってそれを相殺させた。
爆煙を隠れ蓑にして、そのまま外に飛び出す。
「ハウル、待って」
「」
サリマンの元に戻ろうとするに、ハウルが強い調子で呼びかけた。
「帰ろう。 僕らの家へ」
それでも反論しようと顔を上げ 結局は何も言えずにうなずく。
見上げた先のハウルの目が、ひどく優しい色をしていたから。
|