「うんめー!!京都の料理って、なんでこんなにうまいんだろな!」
「ふふふ、ヒカル君ったら。口元についてるよ」
「へ?あ、やっべ!」
慌てて手で拭うところも可愛い。
3人で会うのは久しぶりだからって、アキラ君がとってくれた料亭の個室はとても落ち着けて、何よりも心地よかった。
「ねえ、アキラ君」
「はい?」
「この胡麻和え、おいしいね」
「そうですね。味が上品で、すごくおいしいです」
「あ、このお豆腐もおいしい」
「よかった。ここはお豆腐がおいしいので有名なんですよ」
にこにことそんな話をしていたら、ヒカル君が照れくさそうな声をあげた。
「あああああああ、俺ってば超お邪魔虫じゃん!」
お邪魔虫と言われて、反射的に顔が熱くなる。
隣を見れば、アキラ君の顔も赤い。
そ、そんなに恥ずかしい会話をしてたかな……?
「ぜ、全然邪魔なんかじゃないよ!ヒカル君と一緒に食事できて、嬉しいよ?」
「そ、そうだ。何を言ってるんだ?進藤」
「だってさあ」
ぶう、とヒカル君が口を尖らせる。
「さん、さっきから塔矢ばっかり見てるし。塔矢もさんしか見てないし。俺なんて眼中にないっていうか?むしろいない方がいいっていうか?」
……………………。
じ、自覚なかった……!
ヒカル君とも話してはいるけれど、確かにアキラ君を見ているときの方が多かったかもしれない。
お箸の使い方がいつも通り綺麗だなあとか、背筋がぴんと伸びてていいなあとか、そんなことばかり考えていたから。
まさかヒカル君に見られているなんて、思いもしなかった。
二人で必死にヒカル君をフォローしながら、お夕飯はにぎやかに終わって。
他の棋士の皆さんとはち合わせないようにこっそり戻るところが、何だか修学旅行の部屋移動のようで、やけに楽しかった。
「じゃあ俺、こっち側だから」
「おやすみ、ヒカル君」
「おやすみ、さん」
小さな声でこそこそ挨拶をして、ヒカル君はすたこらさっさと部屋に戻っていった。
「アキラ君もおや 」
「……さんの部屋に行っても、いいですか?」
もう少し話したいと照れながら言われては、断ることなんてできるはずがない。
というか、最初から断るつもりなんかない。
「うん、下の階になるけどいい?」
「もちろん」
誰にも気づかれないように、そうっと、そうっと。
アキラ君曰く、口の軽い先輩が一緒に来ているらしい。
二人でいるところを見つかったら、明日から一瞬で噂が広まるそうだ。
どれだけ交流関係の広い先輩なんだろう……。
いや、「眼鏡かけた白スーツには注意してください」なんて、どこのホストなんだろう。
きっとあれだよ、愛車はスポーツカーとかなんだよ。
真っ赤とか真っ白とか、そういう派手な感じの。
いけない、想像しただけで笑えてきた。
「さん?」
「ん、何でもないよ。思い出し笑いしただけ」
不思議そうなアキラ君に慌ててごまかして、ルームキーをドアに当てる。
「どうぞ。荷物、散らかってるけど」
「お邪魔します」
軽く頭を下げたアキラ君が、入ったはいいけれどどこに座ったらいいのか迷ったように顔を巡らせた。
ヒカル君なら、きっと迷わずベッドに座るんだろうなあ。
思わずくすりと笑って、一つだけある椅子を勧める。
「え、でも、さんは 」
「大丈夫、ベッドがあるから」
ふかふかのベッドに腰かけた私に、アキラ君がお茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
微笑んでお礼を言うと、アキラ君もうっとりするほど綺麗に微笑んでくれた。
「やっぱり、長距離の移動は疲れましたか?」
「うん。新幹線の中はそうでもなかったけど、荷物の重さと京都の暑さにやられちゃった」
「ふふふ、ここの暑さは尋常じゃありませんからね」
それでも、クーラーで冷えた部屋で飲むお茶は、とてもおいしい。
ほう、と一息ついて頬をゆるめると、白い湯気が小さく揺れた。
「明日もイベントだよね?早く寝なくて大丈夫?」
「少しぐらい平気ですよ。それに……さんと、一緒にいたいから」
ああ、やっぱり駄目だ。
どう頑張っても、アキラ君には勝てそうにない。
こんなに幸せそうな顔でそんなことを言われたら、私どうすればいいの。
横を向いて視線を外すと、アキラ君の笑いを含んだ声が追いかけてきた。
「さん、可愛い」
「 っ、アキラ君!!」
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