次の日もアキラ君達はイベントだったから、合流できたのは夕方になってから。
寺社の拝観もほとんど終わってしまったから、三条のあたりをふらふらお散歩。
「あ、ここ、ドラマでよく見るね」
「本当だ。こんなところにあったんですね」
柳が綺麗な小川を見つつ、のんびりと言葉を交わす。
「そうだ。このあたりに、お茶屋さんがあるそうですよ。行ってみませんか?」
「うん!」
アキラ君に連れられて入ったのは、お抹茶を使ったメニューを取りそろえたお茶屋さん……というか、和風カフェというか、とにかく素敵なところだった。
アキラ君はお抹茶のセット、私は抹茶パフェを頼んで、小さな中庭をゆっくりと眺める。
席数が少ない店内は穏やかに静かで、とても落ち着けた。
「……素敵なお店だね」
「ええ」
ぽつりと呟くような会話をして、後はお互いのんびりと庭を眺めながら、お茶とお菓子をいただく。
何故かそれが苦にならない、不思議な空間だった。
抹茶パフェは意外にも結構量があって、途中でアキラ君にも食べるのを手伝ってもらう。
すっかり冷えてしまった身体を温めるために、改めてお抹茶のセットを注文して。
気づけばすっかり夕暮れで、いつの間にそんなに時間がたってしまったんだろうと驚いた。
アキラ君にもたれていた身体を慌てて起こせば、不思議そうに首を傾げられる。
「どうしたんですか?」
「アキラ君、外」
「 あ」
少しまったりしすぎたみたいだ。
気づけば私達以外のお客さんもいなくなっていて、お店の人が微笑ましそうにこちらを見ていた。
「すみません、長居しました」
「いいえ、お気になさらず」
温かく見送られて、お店を後にする。
ゆっくりしすぎたからか、一度傾き始めたお日様が沈むのは早かった。
むしむしと暑い道をたどりながら、鴨川までお散歩。
「どこで食べようか?」
「さん、何が食べたいですか?」
「うーん……お豆腐とか、湯葉とか?昨日も食べたけど、専門店で食べたいなあ」
「わかりました」
にっこり笑ったアキラ君は、すいと私の手を取った。
「近くに、おいしい湯葉専門店があるんです。そこまで行きましょう」
「うん!」
生湯葉も干し湯葉も大好き。
あの触感が苦手とか、味がしなくておいしくないとか言う人もいるけど、ほのかな甘みと口の中でとろけるような感じ。
歯ごたえも優しくて、京都の人はやっぱり上品なんだなあと思ってしまう。
そのまま食べてもおいしいし、少しポン酢をたらしてもおいしい。
どんなお店だろうとわくわくしていたら、ふらりと入ったその先は立派な料亭だった。
「ア……アキラ君……。ここ、ふらって立ち寄るレベルのお店じゃないよ……」
「そうですか?父に連れられて、よく来ていたんですけど……」
「……さすがは行洋先生……」
入った瞬間に顔パスでいい部屋に通してくれるあたり、本当にお得意様のようだ。
料理も文句のつけようがないほどおいしかったです、はい。
「アキラ君、いつもあんなところで食べてたの?」
「父と来たときは、大抵そうですね。母や囲碁関係の人と来ると、また違いますが」
「すごいね。昨日もだけど、あんなところ初めて入った」
純粋に驚いてアキラ君を見ると、何故か照れたように顔を背けられた。
「……その、さんが喜んでくれるかなって……。京都、久しぶりだって言ってたし 」
ひんやりした手に、少しだけ力がこもる。
視線は合わせてくれないけど、見える耳が赤い。
つられるように、私の顔もみるみる赤くなっていった。
「……ずるい」
「え?」
「ずるいずるいずるい!なんでそんなに格好いいこと言うの?」
「え!?」
アキラ君の顔も、私に負けず劣らず赤い。
通り過ぎた老夫婦が微笑ましいような目で見てきたけど、今の私にはアキラ君に文句を言う方が重要だった。
「アキラ君、いつもそうじゃない!わ、私の方が一応年上なのに、ちっともそれらしいことできてないし!むしろアキラ君に寄りかかってばっかりだし!ずるい!ずるい!!」
言い募っている間に、あまりの自分のふがいなさを改めて思い知って、涙がじわりとにじんでくる。
恥ずかしい。
子供でもないのに、こんな外で泣くなんて。
ますます情けなくなってしまった私の肩を、アキラ君がそっと抱いてくれた。
「……さん、ちょっと歩きましょうか」
鴨川の川辺に下りて、空いているベンチに座る。
ちょっと恥ずかしいけれど、周りもカップルだらけだからと自分に言い聞かせた。
「さん」
優しい声が、耳朶をくすぐる。
「年上とか、そういうのを気にするのはやめてください。さんは、僕が年下だから付き合ってくれたんですか?」
黙ってかぶりを振る。
今声を出したら、みっともないものになってしまいそうだった。
そんな私の髪を梳きながら、アキラ君が額を寄せてくる。
「僕だって、そうです。年上のさんが好きなんじゃなくて、恥ずかしがり屋で優しいが好きなんです。だから、気にされるのはちょっと嫌です」
痛いほどに抱きしめられて、耳元でささやかれる。
思いもよらなかった強い口調に、年の差を気にしていたのは自分だけではなかったのだと知った。
「ごめ……ごめんなさい……」
「泣かないでください。さんに泣かれるの、実は一番苦手なんです」
困ったように笑ったアキラ君の胸は、思っていたよりもずっと広い。
ひとしきり泣いた後は温かいそこに包みこまれて、心地よいまどろみに身を委ねた。
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