他の棋士の皆さんを駅まで見送ったアキラ君と合流して、一日だけののんびり観光。
あんまり人の多いところには行きたくなかったから、アキラ君お勧めの静かなスポットを巡ることにした。


「南禅寺ってどんなところ?」
「きっとさんも気に入りますよ」
「そう?アキラ君がそう言うなら、間違いないんだろうけど……」


やけに楽しそうなアキラ君と手をつないで、バスを乗り継ぐこと数回。


「……うわあ……」
「ね?素敵な場所でしょう?」


人が少なくて、お庭が静かで落ち着ける。
竜安寺もすきだけれど、あそこは人が多すぎてちょっと苦手だ。
そんなちょっとしたことまでわかってくれているアキラ君に、無意識に頬がほころんだ。


「次は鎌倉に行くのもいいね。あそこも好きなお寺とか神社とか、いっぱいあるんだ」
「そうですね」


にこにこと会話を交わしながら、境内をゆっくりと歩く。


「そういえば、あれからイベントはどうだったの?」
「なかなかの盛況でしたよ。佐為さんは来なかったんですか?」
「うん、懐かしいからってあちこち飛び回ってたみたい。今日は京都御所に行ってるんじゃないかなあ」
「ああ……殿上人でしたもんね、佐為さん」
「うん。ずいぶん様子が変わってるはずだから、がっかりしてないといいんだけど……」


佐為が落ち込むと、私まで悲しくなる。
佐為にはできるだけ、笑っていてほしい。

不安そうな顔をしていたんだろうか、アキラ君が手をつなぐ力を強くした。


「大丈夫ですよ。平安時代とあまり変わらない部分もあるでしょうし、昨日までも京都を楽しんでいたんでしょう?」
「……ん。そうだね」


けれど、気づいてしまった。
目を輝かせながらあちこちを見る佐為が、ほんの時たま切なそうな眼をするのを。
だから、佐為がどんな思いで京都を見ているかが、とても心配。

思わず眼を伏せてしまったら、アキラ君が顔を覗きこんできた。


「……佐為さんのことが、心配ですか?」
「……顔に出てた?」
「いえ、何となく」


そう言ったアキラ君はちょっと不機嫌そうで、理由がわからずに困惑してしまった。


「アキラ君?」
「……何でもありません」
「何でもないって顔してない。私、何かしちゃった。」
さんは何もしてません」
「じゃあ、どうしたの?」


ヒールを履いても少しだけ背の高いアキラ君を見上げると、諦めたようにため息をついて拗ねた顔をされた。


「……今、一緒にいるのは僕なんですから。佐為さんのことは忘れてください」


……うわあ……!

何ていう不意打ち!
何なの、この格好良さ!
今の言葉で、本当に佐為のことが吹っ飛んじゃった!
やっぱりアキラ君は格好いいなあ。


ものすごく恥ずかしかったから、アキラ君の腕を引っ張って耳元に顔を寄せる。


「あのね」


顔が熱い。
でも、伝えたい。


「私が好きなの、アキラ君だけだよ」


ささやいてすぐに離れようとしたけれど、抱きしめられてできなかった。
人気がないから誰にも見られないけれど、やっぱり身体が熱くなるのは止められない。


「ア、アキラ君、あの……」
さん、嬉しい」


心の底からそう言ってくれてるのがわかるから、嬉しいやら恥ずかしいやら。
さらさらの髪の毛が頬に触れて、ちょっぴりくすぐったい。


「あ……あの、アキラ君、恥ずかしいよ」
「誰も見ていませんよ」
「でも、恥ずかしい」


いやいやとかぶりを振ると、さらに強く抱きしめられた。


「……お願いですから、他の人の前でそんなことはしないでくださいね」
「……うん……?」


ぎゅってされるのも恥ずかしいのも、アキラ君だけなのに。
どうしてわざわざ、そんなことを言うんだろう。


「でも、アキラ君だけだよ?」


一応伝えてみたら、何故か両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
耳が赤いから照れてるんだろうけれど……今のどこに照れる要素があるんだろう。
私にしてみれば、アキラ君の言動の方がずっと照れる要素満載だ。


「い……行きましょう」
「うん?」


手を引かれるままに、お寺の奥へと進んでいく。
歩くにつれてますます人気が少なくなっていって、静かな空気が心を洗ってくれるようだった。
きっと、わざわざ調べてくれたんだろうなあ。


「アキラ君、ありがとう」
「?」
「こうやって一緒に旅行できて、すごく嬉しい」


よくわからないけれど、アキラ君は囲碁の世界でとても人気者で。
ものすごく忙しいはずなのに、それでも合間を縫って私と会ってくれる。
どんなに疲れていても、「さんの顔を見れば元気になりますよ」とか言っちゃって。

今回の旅行だって、きっとかなり無理をしたはず。
そんなアキラ君が   とても愛しい。