裕介はいつでもモテモテだ。
ハーレムってこういうのを言うのかしらって、ちょっといや少しわくわくしてしまう。
もちろん割って入るつもりはない、誰がそんなめんどくさいことをするものか。

あああ、でも、裕介の服を引っ張るのはやめてあげて。
せっかく美麗ママがデザインした、かなりお高いブランド品なんだから。
壊したり型崩したりしたら、君らのお小遣いじゃ弁償できないよ!

嫌そうに(でも普通目には超絶クール無表情に)それを見ていた裕介は、聡パパと約束があるからって逃げていった。


ああ、女の子達の黄色い声が鼓膜に痛い。
どうにかして、あの人間爆音器。


こういうときはあれだ、裕介の家に避難するに限る。
まだ友達らしい友達もいない裕介は、自宅がとても静か。
本もいっぱいあるし、冷蔵庫にはおいしいものが詰まってるし、いいこと尽くしだ。


『家、行く』
『待ってる』


短いメールを交わして、ランドセルを揺らしながらゆっくりと道を歩く。
ぽかぽかと温かい陽気が気持ちよくて、思わず目を細めたその時。
道の脇から、トレンチコートを羽織ったおじさんが飛び出してきた。


「ハァハァ……お嬢ちゃん、可愛いねえ」


可愛い?
それは私に適用される言葉なんだろうか。
少なくとも、裕介みたいに超絶美少年というわけではないし、身長だって平均的。
あえて言うなら、色白なせいで病弱に見られがちという点か。

そんなことを冷静に考察していたら、おじさんがコートをバッと広げた。




…………全裸。
うん、全裸。




春とはいえ、寒くないのかな。
ていうか、自宅からずっとこの格好で来たんだろうか、この人。

とりあえず、私のとるべき反応は?


「……きゃあ?」


可愛らしく悲鳴を上げてみた。
それがよくなかったのか、おじさんの息がさらに荒くなる。

おいおいおい、加齢臭がそこはかとなく漂ってきてるよ。
うーん……この全裸をどうしろと。
とりあえず冷静に観察してみて。


「……汚い。小さい」


正直に言ってみた。
男の裸は父親で見慣れてるし、裕介とも時々一緒にお風呂に入っている。
何故って、美麗ママが「ちゃんがうちの娘になったみたい!」って喜ぶから。


「……まあ、いっか」
「いいんじゃない?俺達だし」


そう納得しあった記憶は新しい。
まあそんなわけで、今更男の裸に恥じらう必要はないわけで。
何やら盛大にショックを受けている様子のおじさんを放置して、裕介の家に向かった。


「ただいま」
「お帰り」


いつも通りの会話を交わして、裕介は経済誌。
私は歴史書を読むという、何とも至福の一時を過ごす。
この静かな空間が、私はとても好きだ。
しばらくまったりと過ごしていたら、ぴんぽーんと間抜けな音。


「……お客さんだよ」
「そうだね」
「裕介行きなよ」
が行けば?」
「私、この家の人じゃないもん」


静かな攻防、しばし。
仕方がないので、二人一緒に出ることにした。


「ちょっと待ってて」


めんどくさそうにサンダルをつっかける裕介がドアを開けると、なんだか腰の低いお姉さんが回覧板を持ってきていた。


「こんにちは」
「こんにちは」


挨拶を返すと、何故か目をきらきらされた。
何故だ。
お隣さんは吉井奈緒子さんというらしく、最後に私の頭をなでて出て行った。
ちょっと危機感が足りなそうだけど、いい人っぽかったなあ。


「あのお姉さん、どんな人?」
「ちょろい」
「……なるほど」


よくわかりました。