美麗ママの主催するパーティーは、多分他の人達が思ってるよりもずっと多い。
ガキ大将達も、多分だけど全部は知らないだろう。

この間の誕生日パーティーにも出席したけど、今日は芸能人とかファッションモデルとか、美麗ママのお仕事でよく一緒になる人達とのパーティー……らしい。
詳しくは知らない。
興味がないから、わざわざ訊いたりもしない。

なんでそんなところに私みたいな一般人が紛れこむかというと、美麗ママの子供服用ブランドの第一段階試着モデルをやっているからだ。
いや、うん、最初は身近なところで済まそうって感じだったから別に気にしてなかったんだけど、まさかこんなに大事になるとは。

テーブルマナーを教わっててよかった。
美麗ママ、どうもありがとう。


、ここにいたんだ」
「あ、もう挨拶回り済んだの?」


スーツを着こなした裕介に首を傾げると、小さく肩をすくめられた。
どうやら裕介の分は終わったようだ。
美麗ママはいまだに人に囲まれて、声しか聞こえない状態だけど。


「相変わらず人気者だね、美麗ママ」
「今回は母ちゃんのコネ目当ての奴がいないから、かなり気楽だって言ってたけど」
「ああ、だからこんなに声が明るいんだ」


ぎらぎらした人がいる時は、美麗ママの声も武装してる。
いつもよりもちょっと高めで、存在感をアピールするような華々しい声になる。
そうやって自分に人を引きつけておいて、裕介とか私とかを守ってくれてるんだろうとは、ひめちゃんの言葉。
そういうのは難しいから、よくわからない。
大人ってやーねー、ぐらいの感覚だ。

この間もらった服の裾をつまみながら、どうでもよさそうな裕介にどうでもよさそうに返事をする。
裕介がどうでもよさそうにできるほど、このパーティーは平和なんだ、つまり。
とか思ってたら、裕介がふと下に目線をやった。


、その靴」
「うん?」


服に合わせてお母さんに買ってもらった、エナメルの真っ白な靴。
ヒールがあるとお姉さんになった気分で気持ちいい。
結構気に入ってたから、似合っていないのか不安になって裕介を見る。
そうしたら。


「いいんじゃない?」


ちょっぴり、本当にほんのちょっぴりだけど、裕介が微笑みながらそう言ってくれて。
おお、貴重なショットだ、写真撮ったらいくらで売れるかなとか考えつつも、私にしては珍しく顔が赤くなってしまった。
うーん、美形の微笑は破壊力が高い。
気を抜きすぎたな、私としたことが!


「ありがと」


笑い返して、フルーツをぱくり。
パーティーの時はいつもおいしい食べ物がいっぱいだけど、今日は美麗ママの力作だから汚すのが怖い。
フルーツしか食べられないのがもったいないなあ。
まあ、フルーツもすごくおいしいから、別にいいんだけど。


、料理は?」
「汚すの怖い」


すぱっと切り返す。
しょうがないじゃん、裕介みたいに着慣れてないんだもん。
馬鹿にした目で見られても、痛くも痒くもない。


「……料理取ってくるから。あそこに座って待ってて」
「ん、ありがと」


裕介が気を遣ってくれたので、遠慮なく椅子に向かう。
だって、ヒールの靴って爪先が痛いんだもの。
私にはちょっと高めの椅子に座って足をぷらぷらさせていると、何人かの男の人が前に来た。

うん?
誰だろう、なんか見たことある気がする。
首を傾げて見上げていると、真ん中の人が口を開いた。


「ねえ、名前教えてもらっていいかな?」


誰だこの人。
何で私の名前を知りたいんだ。
ひめちゃんなら無視しろって言うんだろうなあと思いながらしばらく考えて、ようやく思い出した。


   あ。ジューンブライドの」


人気絶頂のアイドルグループでした。
道理で見覚えがあるわけだ。
そして全員きらきらしてるわけだ。


「そうそう、俺達のこと知っててくれたんだ」
「俺達、去年の椎名さんのブランドのイメージキャラクターだったんだよ」


嬉しそうに真ん中の男の人が答えた途端、みんなが一斉にしゃべり出した。
ちょ、私は聖徳太子じゃないってば!


「君のこと、あの頃からずっと気になってたんだ」
「そうそう、誰なんだろうって」
「どこの事務所探してもいないしさ、もう駄目かと思ってた」
「いつからモデルしてるの?」
「あ、他に仕事してるの?」


何だこの人達。
何の話をしてるんだ?


ぽかんと見上げていると、アイドル達はあれこれ騒ぎ出した。
嫌だなあ、目立っちゃう。
早く裕介が来るか何かして、あしらってくれないだろうか。
早く来い早く来いと念じていると、お皿に料理を盛りつけた裕介がようやく帰ってきた。


「……何やってんの」
「遅い。お腹空いた。あと、これは私のせいじゃない」


名前を呼ばないでくれたことにほっとしながら、この人達をどうにかしてくれと口を尖らせる。
頭のいい幼なじみはそれだけで私の言いたいことを正確に汲み取って、アイドル達を蹴散らして私の前に立ちはだかった。


「すいません、彼女は事情があって、マネージャーとかついてないので。   あっち行くよ」


呆気にとられているアイドル達を気持ちいいほど無視した裕介に腕をとられて、ちょっと早足でその場を離れる。
後ろから「すっげ、さすがファースト・レディー」とかいう声が聞こえたけど、何のことかわからないからとりあえず無視。

どうでもいいけど、裕介はあのアイドルグループよりもきらめいてた。
もう芸能界デビューしちゃいなよ、裕介。


会場の隅っこの方、目立たないところにある椅子に座って、裕介が持ってきてくれた料理をもぐもぐもぐもぐ。
ソースとかが飛び散りにくいものばっかだ。
ありがとう、さすが裕介。


「おいしい?」
「うん」
「そ」
「ねえ、ファースト・レディーって何?」
「……大統領の奥さんのことだよ。日本じゃ、天皇家に嫁入りした人のことかな?」
「ふうん。あの人達、私のことファースト・レディーって言ってたけど」
「…………は知らなくていいことだよ」
「そっか」
「そう」


大統領の奥さんと私が、何で結びつくんだろう。
まあいっか、とりあえず食事食事。