かの有名な三途の川をるんるんと渡り、面白い顔のカロンさんとも少しだけお話をした。
きらきらしたものが大好きだと聞いたから、バッグに入っていたメダルチョコ(ミロさんの日本土産)を2枚あげる。


「疲れたら食べてくださいね!」
「あ、ありがとうございます!!姫君から直接物を頂戴できるなんて……!!」


何故かものすごく感動されて、とてつもなく申し訳ない気分になった。
1枚10円しないんだけどな、あれ。


対岸に着いて(タナトスさんのエスコートで)下ろしてもらうと、さっきまでとは明らかに空気が違うのを感じる。
息をするだけで、ずしりと重いものが身体に入ってくる気がした。


「大丈夫か?」
「うーん……冥界って感じがしますね」
「軽口を叩く程度には平気か。だが、無理はするなよ」


つらくなったらすぐに言えと、カノンさんに軽く肩を叩かれた。
タナトスさんも気遣わしげにこちらを見ていて、心配してくれているんだと温かい気持ちになる。


「大丈夫ですよ!無理だって思ったら、すぐにギブアップするので」
「それがいいな」
様、ご無理はなさらず」
「はい」


綺麗な建物を見上げて、ようしと気合いを入れ直す。
頑張れ私、きっとすぐに慣れるさ!


かつりかつりと靴音が響いて、静かすぎる建物の中は、少し薄気味悪い。


「怖いか?」


笑みを含んだ声でカノンさんにそう言われた。
全くの無意識だったんだけれど、カノンさんの腕にすがるような形になっていたらしい。
慌てて離れて謝ると、「無理はするな」と額を小突かれた。


「何の準備もせずにきて、これまで何ともなかった方がおかしいくらいだからな。負担があっても、恥じることはない」


特にここは、死者を裁く場所だからな。


その言葉でようやく、ここが日本で言う閻魔様の場だと気づく。
死者の怨念がこもっていそうだ……。

あからさまにびくつきながらカノンさんの後ろを歩いていると、ちょっとした広間にたどり着いた。


「ルネ!姫君がおいでだ」


誰もいない空間に向かってタナトスさんが呼ぶと、打てば響くように奥の扉が開く。
待機してたのか、ルネさん。


黄金の皆さん並みに長い髪のルネさんは、やっぱりちょっぴり疲れているようだった。


「これは……タナトス様。珍しいですね、貴方がいらっしゃるなど」
「姫君をお連れした」
「姫君……?」


どことなくうつろな目で私を見た瞬間、ルネさんが軽く目を見開く。
どうしたんだろう、どこ変なところがあったかな?

首を傾げつつ見返していると、ルネさんが慌てたように壇上から降りてきた。


「失礼致しました。私は天英星のルネ、この第一獄を任されております」
「え?あ、あの、です」
様……お目にかかれて光栄です」


うやうやしく跪かれて、もうどうしたらいいのかわからない。
おろおろと無意味にうろたえながらカノンさんを見上げると、ひょいと肩をすくめられた。


「どどどどうしましょう」
「偉そうにふんぞりかえっとけ」
「無理ですって!!」


明らかに年上相手に、そんなことできない!!


泣きそうになりながら思いっきりかぶりを振っていると、たまりかねたようにカノンさんが吹き出した。
その横で、タナトスさんも微笑ましそうな顔をしている。


え、あの、そんな顔してないで助けてくださいよ。


「顔を上げてやってくれ、ルネ。こいつは少し前まで単なる人間でな、敬われることに慣れていない」
「しかし   
「あの、本当に気楽にしてください。そんな風にされると、何だかかえって申し訳なくて……」


カノンさんが言ってもまだ渋るので、私もおそるおそる口を挟む。
居心地が悪すぎて、カノンさんの後ろに半分隠れていたけれど。


ああ、タナトスさんにますます微笑ましそうな顔を……って、悔しそうな顔でカノンさんを睨んでるー!?(どうして!?)


「……姫君が、そうおっしゃるならば……」


ルネさんが(ものすごく)渋々引き下がってくれたのはありがたいけれど、今度はタナトスさんが気になって仕方がない。
首を傾げながらタナトスさんを見ていると、ぱちりと目が合った。

すぐに優しい顔に戻ってくれたから、多分何か機嫌が悪かったんだろう。
ひとまずそれ以上は気にしないことにして、もう一度ルネさんに向き直った。


「いつもお疲れ様です。いっぱいお仕事していただいちゃって、本当にありがとうございます」


ぺこりと頭を下げて、おもたせのクッキーを手渡す。
アフロディーテさんと一緒に焼いたから、味は悪くないはずだ。


「手作り……?」
「はい。急なことで、お買い物に出かけられなかったんです……」


そんなものですみませんと頭を下げたら、ルネさんの方が慌てまくってしまった。


「ひ、姫君!手作りの品など、そのようなもったいないものを頂戴して……!」


恐れ多いことですとさらに深く頭を下げられた。
こんなしょぼいものを、と怒ってはいないらしい。


様、そろそろ」
「あ、はい」


タナトスさんに行こうと促されて、名残惜しく感じながらルネさんと握手した。


「お仕事、頑張ってくださいね」
「姫君の願いとあらば」


にっこりとうなずき返してくれたルネさんに笑って、カノンさんの横に戻る。 と、タナトスさんにそっと手を取られた。


「ここから先は風が強くなっています。すぐに別の場所に移動しますが、お気をつけください」
「はい」


それなら、カノンさんよりタナトスさんにつかまっていた方がいいかもしれない。


「じゃあ、カノンさんも」
あれは大丈夫でしょう。聖闘士ともあろうものが風ごときにとばされるなど、ありえません」
「そうですか……?」


ものすごくいい笑顔で言われて、思わずカノンさんを仰ぎ見てしまった。

苦笑しながらうなずいてくれたから、大丈夫なんだろう。
多分。


















(過保護になりつつあるタナトス。ヒロインは冥界勢に大人気です。あの甲斐性なしのヘタレ主人に、子供ができるなんて!みんな大喜び)