幸せいっぱいのオルフェさん達と別れて、しばらく続くという花畑をのんびり歩く。
地獄の中とは思えないほど綺麗な光景に感動していたけれど、だんだん身体から力が抜けてきた。


というか、身体に力が入らない。
吐き気もしてきたし、視界も歪んできたし   




、どうした?」
「カノンさ、   いま、せ」




「おい!?」


もう駄目かもしれません。


言い切る前に、ぶつりと意識が途切れた。
やばい、この流れだと起きた時に怒られる。












とか思いながら気絶したのに、起きたら双子神のものすごく心配げなドアップだった。
ええと、カノンさんはどこに行ったんだろう?


「姫君!タナトスからお倒れになったと聞いて、心臓が止まるかと思いましたよ」
「気分はいかがですか、様」
「ええと……はい、大丈夫です」


心配されすぎて、むしろ申し訳ないです。
そんなに死にそうな顔をされるなんて、まさか想像もしていなかったので……。


「あの、カノンさんは?」
「あれなら、ラダマンティスが相手をしておりますよ。まさか、様がお休みの室内に入れるわけにもまいりますまい」
「あの2人は、以前は死闘を繰り広げたもの同士。積もる話もありましょう」


え、あの、それって拳で語り合うデスマッチですか?
そんなに積もるほどのデスマッチを繰り広げそうな2人、一緒に放置して大丈夫なんですか?


それに聖域では、寝ている間に黄金の皆さんが入ってくることなんてしょっちゅうだ。
別に今更、気にすることもないと思うんだけれど……。

目の前の双子が怖すぎて、そんなことは言い出せないけれど。


「起き上がれますか?」
「はい   って、何だこりゃ!?


むくりと起き上がって、思わず奇声をあげてしまった。

普通のTシャツにスカートだったはずの服が、沙織さんの黒バージョンのようなものになっている。
いや、沙織さんのよりも凝っているかもしれない……。

どうして私がこんなものをっていうか、誰がこれを着せてくれたんだろうか。
よもや目の前の双子ではないだろうなと疑っていたら、ヒュプノスさんがにっこりと笑った。


「お召し物は、ニンフ達が。ご安心ください」
「あ……そうなんですか」


心底ほっとしてため息をこぼすと、タナトスさんが小さく笑う気配がする。
勢いよくそちらを見ても、すました微笑しか浮かべていなかったけれど……あれば絶対に、おかしくて笑った感じがした!


「……カノンさんのところに、行きます」
「しかし、まだお身体が   
「大丈夫です!」


カルガモの親子だと笑われるかもしれないけれど、カノンさんが傍にいないことが無性に不安になった。


知らない場所、知らない部屋、知らない服、いつもとは違う人達。
カノンさんじゃなくてもよかったのかもしれない、とにかく見知った人に会いたかった。


かたくなにカノンさんに会いたいと繰り返す私に、とうとうヒュプノスさんがため息をつく。


「……タナトス、お連れするぞ」
「ヒュプノス?」
「他ならぬ姫君の願いだ、叶えるのが我らの務めだろう」


ひょいと肩をすくめて、ヒュプノスさんが兜のようなものをかぶった。
それはさっきまでタナトスさんがかぶっていたものとそっくりで、耳のところについている羽だけが、左右逆だ。
多分、出かける時にはいつもかぶるものなんだろうけれど……。


「かぶっちゃうんですか……?」


かぶらない方が、絶対に格好いいのに。
横を見るとタナトスさんも同じようにお出かけ仕様になっていて、自然と小さく口が尖る。


「姫君……ハーデス様の御前に参るのです、正装はせねばなりません」
「あれ?カノンさん、ラダマンティスさんといるんじやないんですか?」


さっきそう言っていたような気がしたけれど、もしかしたらお父様が相手をしているんだろうか。
だとしたら、なおさら早くカノンさんのところにいかなければ!


「いえ、ハーデス様はこのエリュシオンにおいでです」
「エリュシオン!?」


こ、ここって、あのエリュシオンだったのか……!


外に出てみたい、どんなところか見てみたい。
キリスト教で言う天国、仏教で言う浄土。
きっと、言葉では言い表せないほど綺麗なんだろうなあ……。


「冥界よりはずっと、様のお身体にいいはずですよ」
「かの地は死の気配に満ちた場所、生を司る姫君にはおつらいはず」


どうやら気持ちがぐらついたのがわかったらしい、ここぞとばかりに2人が口々に留まることを勧めてくる。
よろしければ案内して差し上げますよと言われて、思わずうなずきそうになったのは秘密だ。


こらえましたとも、一生懸命頑張って!


「と、とにかく!まずはカノンさんのところに行くんです!!」
「……承知致しました」


だまされるものか!と睨みつけて宣言すると、タナトスさんがあからさまに渋々うなずいた。
ヒュプノスさんは思いっきり不満そうな顔をしていて、今にもこちらに手を伸ばしてきそうな勢いだ。


眠らされてたまるものか……!(眠りの神になんかに負けない……!)(実際にやったら一瞬で負けるけど!)


一旦出て行った2人と入れ替えに入ってきたニンフ達に、あれやこれやと格好をいじられる。


「あら、その編み込みよりもこちらの方がお似合いでしてよ」
「まあ本当、ではもう一度」
「お召し物はこちらがいいかしら、それともこちら?」
「いえ、あちらの方が華奢なお身体を映えさせてよ」


きゃあきゃあきゃあきゃあ。


ニンフは基本的に正の感情でできている生き物だから、やっぱりちょっと人とは雰囲気が違う。
こんなにたくさんのニンフに囲まれていると、どことなく居心地が悪くて仕方がない。


「……あの、そんなに凝らなくていいので……」
「いいえ、いいえ、そのようなことはできません」
「ハーデス様の姫君ですもの」


一応言ってはみたものの、予想通りに一蹴されて終わってしまった。
……いつになったら解放してくれるんだろう……。


















(知らない間にエリュシオン到着。ニンフに着せ替え人形にされちゃいました。ちなみに、ニンフが正の感情しか知らない云々というのは、完全にヒロインの誤解。本当は下級女神や精霊を指します)