「カノンさーん!」
「、もう大丈夫なのか?」
「はい。お騒がせしました」
大きくうなずくと、カノンさんがほっとしたように顔をゆるめた。
くしゃりと頭をなでられて、私も顔がゆるむ。
「カノン、そちらの方はもしや 」
「……ま」
「言うな。何を言いたいのか想像はつくが、何も言うな。いいな?」
眉毛つながってますよと言おうとした瞬間に、カノンさんに光速で口元をふさがれた。
「すまんな、ラダマンティス。こいつはだ」
「ラダマンティスさん……!!冥界の執政官!!初めまして、いつもお父様がお世話になっています」
苦労人その1!
となると、やけに老けて見えるのも、苦労しているせいか。
眉毛つながってるけど。
「……?」
「一応、ハーデス様の娘ってことになってます」
「 失礼いたしました!」
身分を言った瞬間に、ラダマンティスさんの顔色が変わった。
別に私は気にしないんだけれど、やっぱり主人の娘は格が違ってしまうんだろうか。
嬉しくないことだと口を尖らせていたら、カノンさんに肩を叩かれた。
「俺達の、アテナに対する振る舞いを知ってるだろ?こいつらも同じだ、勘弁してやれ」
「でも、私は全然偉くないんですよ?」
「ユリティースを救っただろうが。あれは正に、神の領域だ」
「……え?」
どうぞお座りくださいと、ラダマンティスさんに椅子を勧められる。
肩を抱いてエスコートされて、操り人形のようにすとんと座りこんだ。
頭が、うまく回ってくれない。
「……あれ、お父様がやってくれたんじゃないんですか?」
「あれはお前がやったんだ。あの小宇宙は間違いなく、お前のものだぞ」
「えええええ!?」
いやいやいやいや、まさかそんな。
神様なんて名前ばかりの私が、あんな奇跡起こせるはずないじゃないですか。
必死にかぶりを振って否定しても、カノンさんは嘘だと言ってくれない。
「……様」
パニックで半泣きになっていると、それまでずっと黙っていたラダマンティスさんが口を開いた。
低音ボイスがお腹に響く……って、現実逃避している場合じゃないか。
「何ですか?」
「先程、第二獄の付近で、通常では考えられないほどの巨大な小宇宙を感知しました。おそらく、様のものではないかと……」
「……やめてくださいよう」
そんなすごい力、別にいらないのに。
へたりと眉を下げて呟くと、ラダマンティスさんが困ったような顔をした。
その表情を見ていると、何だかこちらが悪いような気分になってくるから不思議だ。
「まあ、お前が違うと思うなら、それでいいんじゃねえか?」
カノンさんがそう言ってくれて、ようやくちょっとだけ安心できた。
固まっていた表情をゆるめて笑い返して、そこでようやくカノンさんの手元に紅茶とクッキーが置いてあることに気づく。
気づいた瞬間、顔から血の気が引いた。
「カ、カカカカノンさん、それ食べて平気なんですか!?」
サガさんからあんなに言われたのに!
平然とクッキーを食べているカノンさんに、思わずムンクのような顔になってしまう。
カ、カノンさんが地上に戻れなかったら、サガさんにどうお詫びしたらいいんだろう……。
すいません、カノンさんがうっかりクッキー食べちゃいました?
いやいやいや、ありえない。
私が殺される。
慌てふためく私に、カノンさんがクッキーを一つつまんでみせた。
「これは地上の食べ物だ。心配ない」
「地上の……?」
どうして冥界に地上のものがあるんだろうか。
首を傾げると、カノンさんがラダマンティスさんを顎で示した。
「こいつは人間だ。生きている」
「は……えええ!!」
まさか、冥界に生きている人がいるなんて。
衝撃の事実に心底驚いていると、ラダマンティスさんが私にも紅茶を注いでくれた。
「どうぞ。よろしければ」
「……」
飲んでも怒られないかとカノンさんを盗み見ると、大丈夫だというようにうなずかれる。
それに安心して一口飲むと、レモンのほのかな味とすっきりした渋みが広がった。
「おいしい……これ、何て紅茶ですか?」
「ルイボスレモンです。ノンカフェインですので、紅茶やコーヒーが苦手でも飲みやすいかと」
「ありがとうございます」
そこまで考えてこれを淹れてくれたのかと、無性に嬉しくなる。
(正直)顔は怖いけど、すごくいい人!
にこにこしながら紅茶を飲んでいたら、不意にラダマンティスさんが視線をそらした。
さりげなく口元を押さえているけれど……具合でも悪くなったんだろうか。
それとも、たまりまくっているお仕事の何かを思い出したんだろうか。
「大丈夫ですか……?」
「はい、お気遣いなく……」
「ほっとけ。別に体調が悪いわけじゃない」
「でも 」
いいから気にするなと手をひらひらされて、納得がいかないながらも渋々うなずく。
「あの、本当に無理しないでくださいね?」
「は、い……」
重々しくうなずいたラダマンティスさんは、その後いろいろと私に質問をしてきた。
聖域はよくしてくれているか、黄金の皆さんは親切か、不自由していないか、何か足りないものはないか。
一つ一つに答えながら、思わず吹き出してしまう。
「ラダマンティスさん、まるでお父さんみたい」
「おと……」
気づいていなかったのか、ラダマンティスさんが絶句してしまった。
その横で、カノンさんがくつくつと笑っている。
「なるほど。確かに親父だな、ラダマンティス」
「お父様に答える時の、予行演習になりました」
だから大丈夫ですよ!とフォローしたら、ますます撃沈させてしまった。
今のどこに撃沈要素があったのか、いまいちよくわからない……。
(ヒロインの笑顔にノックアウトされたラダ。のくせ、父親扱いされてかなりショック。そしてヒロインはやっぱり、とどめをさしたことに気づいていない。ラダさんは心配性!)
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