へこんだままのラダマンティスさんはとりあえずそのままに、カノンさんと二人でおいしく紅茶とクッキーをいただく。
クッキーはどこのだろう、外国のものにしては日本人好みの味をしている。


「どっちもおいしいですねー」
「貴女のために取り寄せましたからね」


ほのぼのと呟いたら、いきなり背後から答えが返ってきた。

思わず悲鳴をあげた私、きっと悪くないだろう。
誰でも驚くよ、普通。


「……あんまりこいつを驚かせるな、ミーノス」
「おや、すみません。あまりにも幸せそうなので、つい」
「つい、で驚かすの、やめてください……!!」


心臓止まるかと思ったんですよと訴えると、ミーノスさんは晴れやかな表情で微笑んだ。


「ご心配には及びません。貴女の心臓が止まっても、ハーデス様が死なせはしないでしょう」


あっさりさらりと言われると、なるほど確かにと思ってしまうから不思議だ。
うんうんとうなずいていたら、カノンさんに思いっきり頭をはたかれた。


「痛った!?」
「阿呆、だまされんな!」


そもそも神には、死ぬっつう概念が薄いんだよ!!


確かに、死んだ神もいるにはいる。
ゼウスは自分の父神を殺して王座に就いたんだし、その父神のクラノスだって自分の父神を殺して最高神になったはずだ。

けれど今のオリュンポスの神々になってから、私の記憶の限りでは、死んだ神は思い当たらなかった。
まあ、私の知識なんてたかが知れてるから、いるのかもしれないけれど。


カノンさんの言うことは充分に納得できたので、ひとまずそれ以上考えるのはやめておいた。
それよりも。


「ミーノスさん、お仕事はいいんですか?」


冥界三巨頭が、こんなところで油を売っていていいはずがないのだ。
こうしている間にも仕事がたまっているんじゃないかと思うと……!!(恐ろしすぎる!!)

密かに冷や汗を流しながら尋ねると、ミーノスさんはにっこりと笑った。




「アイアコスに押しつけてきましたから」




黒 い 。




どうしましょう、お父様。
ミーノスさんが真っ黒です。


あれー、おかしいなー?
ミーノスさんって、冥界の執政官の中で一番真面目な人じゃなかったかなー?



……げ、現実は直視しなきゃね!うん!!


こりゃあタナトスさんが苦労人になるのもわかると、しみじみ思った。
ついでに言うと、ラダマンティスさんとアイアコスさんも苦労人属性だ。多分。


「姫君、紅茶のおかわりはいかがですか?少し冷めてしまったでしょう」
「あ、ありがとうございます」


ミーノスさんが流れるような手つきで紅茶を注いでくれる。
角砂糖も有無を言わせず1個投入されて、マイペースな人だとこっそり思った。


「どうぞ」
「はい」


大きくてしっかりとした手でうながされ、甘すぎないかと思いながら一口飲む。


「……おいしい!」
「ルイボスは癖がありますからね。砂糖を入れると、それが薄まるんですよ」


微笑んだミーノスさんにこくこくとうなずきながら紅茶を飲んでいると、不意にすいと手が伸びてきた。
ごく自然な仕草で伸ばされたそれは、私の頬を包んでやわやわとなでる。
思わず硬直してしまった耳に、うっとりするような美声が流れこんできた。




「……本当に、お可愛らしい」
   はい!?」




ええと、ええと……何かの間違いだよね、うん!


「おい、ラダマンティス。あれはどうにかならんのか」
「知るか。奴がああなったら、元に戻るまでどうにもならん」
「どういうことですか、ラダマンティスさん!!」


横でぼそぼそ言い合っていたラダマンティスさんに、助けて!!とばかりに訊くと、ものすごく申し訳なさそうな表情をされた。
その割に顔が赤いのが少しだけ気になったけれど、今はそんなことより目の前のミーノスさんだ……!


「その……ミーノスは仕事に追い詰められすぎると   
「姫君、ラダマンティスなど捨て置いて、こちらをご覧ください」


説明の途中で、ミーノスさんの指が顎にかかった。
つまんでくいと引き寄せられて、思わず悲鳴が出そうになってしまう。


近、近い!!
無意味に近い!!


   少々、性格が変わるようでして……」
「これが『少々』の域に入るんですか!?」


入るはずない、絶対嘘だ!!
黒くてエロいミーノスさんなんて嫌だー!(うわーん!)


「ミ、ミミミミーノスさん、お茶でも飲みましょう!落ち着きますよ!」


どうにかしなければと焦って、手元にあったティーポットから空のカップに紅茶を注ぐ。
ノンカフェインで身体に優しいし、ハーブ系の味だから頭もすっきりするはずだ。


というか、すっきりしてください。
お願いですから。


「おや、姫君自らの紅茶をいただけるとは……身に余る光栄ですね」


顎から手が外れてほっとしている間に、ミーノスさんは優雅な手つきで紅茶を飲み干した。
カップに8分目まで入っていたけれど、ぐぐいと一息で。


「リラックスできる香りですね。最近はあまり眠れていないので、落ち着きます」


ふう、と吐息をはいて微笑んだミーノスさんの身体が、何の前触れもなくぐらりと傾いだ。
何が、と思う間もなく、立った状態だった身体がこちらに向かって倒れてくる。
受け止めようとして自分もバランスを崩し、頭から床に倒れこんでしまった。


「きゃ   !!」


!?」
様!!」


黒曜石のような床に頭を打ちつけたら、きっとただでは済まないだろう。
きつく目を瞑ってお父様に助けを求めた時、強い衝撃が背中を襲った。




   怪我は、ないか?」
「……カノン、さん……」




ほんの少し血の気の引いたカノンさんの腕が、私の背中を受け止めている。
ミーノスさんはラダマンティスさんがつかみ起こしていて、2人とも無事でいられたことにほっとした。


「お騒がせしました。目が覚めたら、普段のミーノスに戻っているでしょう」
「そうですか……」


その言葉にさらにほっとして、そういえばどうしてここまで睡眠不足になるのだろうと疑問に思う。
ラダマンティスさんに尋ねてみたら、あっさりと原因がわかった。




「ヒュプノス様のお仕事が、全てこちらに回ってきておりますので」
「……………………」




とりあえず。




「仕事しろおおお、ヒュプノスさぁぁぁぁぁん!!」


















(ミーノスは二重人格。そこは知らなかったヒロイン、ブラックミーノスの餌食になりましたとさ!ブラックミーノスは本音が垂れ流しになるからタチが悪い)