「そういえば、氷河君のお師匠様は誰なの?」
「え?ああ カミュです」
「カミュ……?カミュって、あのカミュさん?」
事もなげに言った氷河君に、思わず聞き返してしまった。
不思議そうに首を傾げながらもうなずくのを見て、そうかあ、師弟かあ……と感慨深くなってしまう。
言われてみれば、2人ともどことなく雰囲気が似ていた。
礼儀正しいところも、ふとした視線の流し方も、誰かに似ていると思ったらカミュさんだったのか。
そして、カミュさんの弟子という言葉で、もう一人を思い出す。
「アイザックさんも、確かカミュさんのお弟子さんだよね。そういえば、アイザックさんから氷河君のことを聞いてたよ」
どうして忘れていたんだろう。
氷河君のことを弟弟子だと言っていたから、きっとアイザックさんが兄弟子なんだろう。
氷河君のことを話す時はお兄さんの顔をしていて、本当の家族のように仲がよかったんだろうと思った記憶がある。
なんて思いながら小さく笑ったら、ひどく驚いた様子の氷河君に肩をつかまれた。
「アイザック……アイザックに、会ったんですか!?」
「え、え……うん」
「どこで!?」
切羽詰まったような様子に首を傾げると、瞬君がこそりと耳打ちしてくれる。
「……氷河、ずっとアイザックと会ってないんですよ」
「そうなの……?」
「はい。海界で戦ってから、もう一度も」
それは何だか、とても悲しいことだと思った。
3人とも、お互いが大事なんだっていうのは、私でもよくわかるくらい伝わってくるのに。
どうして会えないんだろう。
「……氷河君、普段は日本にいるんだよね?」
「はい」
「そっか……じゃあ、聖域にアイザックさんが来ても、氷河君は会えないんだね」
この間は遊びに来てくれると言ってくれたアイザックさんも、まさか日本までは行ってくれないだろう。
となると、氷河君達が会えるのは、今回のような機会だけだ。
「氷河君、瞬君、ちょっと待っててくれる?」
2人に断って携帯を取り出し、沙織さんにかける。
忙しくて出られないかとも思ったけれど、意外にも3コールで涼やかな声が聞こえた。
『さん?どうなさいました?』
「お忙しいのにごめんなさい。あの、お願いがあるんですけど……」
『まあ、そんなに改まらなくても結構ですのに。さんのお願いなら、叶えないわけがないでしょう?』
ころころと笑う声がするけれど、よく考えるととんでもないことを言われている気がする。
ドバイに城が欲しいとか言い出したらどうするつもりなんだろう、沙織さん。
「ハンカチの刺繍がうまくいったから、ポセイドン様に差し上げたいんです。この間のお礼もまだですし……」
『まあ、素敵ですね!今度私にも作ってくださいますか?』
「もちろん!……それで、あの 」
弾んだ声でうなずいて、その先を言おうと息を吸う。
けれどそれより早く、沙織さんが悪戯っぽい声を出した。
『 アイザックを、使者として招けばいいんですね?』
「……っ、はい!」
さすが沙織さん、何でもお見通しだ!
本当ならば、贈り物をする側が使者を立てるのが通例。
礼を失することになるけれど、沙織さんならばどうにかしてくれるだろう。
うっきうきと電話を終わらせて、首を傾げている2人に笑いかける。
「お待たせ!刺繍にほつれがないか、後でチェックしなきゃね」
「……さん、海界に行ったことがあるんですか?」
「うん。アイザックさんともその時に会ったんだ」
氷河君も瞬君も何のために行ったんだとありありと顔に書いているけれど、まさか沙織さんの思い付きですとは言えまい。
どう言おうと悩んだ挙句、うまい言い訳が思い付かなくて、結局微妙なごまかし方になってしまった。
「カノンさんのお仕事に、社会科見学でついて行かせてもらったの」
「……社会科見学……」
こ、こら、呆れたような声を出さないの!
本当はただの旅行なんだから!(そっちの方がどうかと思うけれど)
痛々しそうな視線に耐えきれずに、強制的に話題転換を試みる。
「ア、アイザックさんもカミュさんも、氷河君が大好きだよね!」
「……は?」
なのに、余計に「何言ってるんだこいつ」という目をされた(酷い……!)
「だ、だって、アイザックさんは氷河君の話をする時にお兄さんの顔してたし、カミュさんもお弟子さんからのお手紙の話をした時に、すごく優しい顔してたもの!」
「……はあ!?」
苦し紛れに言い返したら、今度は氷河君がものすごく恥ずかしそうな顔になった。
耳と頬を真っ赤にして、色白だからそれが余計に目立っている。
可愛いなあと微笑ましく思いながら見ていたら、何度か口を開け閉めした氷河君に噛みつかれた。
「いつ!何でそんな話になったんですか!」
「え?アイザックさんは雑談ついでに、カミュさんはお父様へのお土産をどうしようって相談をした時だけど……」
お手紙書けば喜んでくれるって教えてくれたの、カミュさんなんだよ。
下手くそな字で書かれたお手紙に大感激していたお父様を思い出して恥ずかしくなりながら付け加えると、氷河君が片手で顔を覆って呻き声をあげた。
「カミュ……!」
「……ちょっと待って。その ハーデスは、さんのお手紙に喜んだの?」
けれどその氷河君も、ためらいがちな瞬君の言葉ではたと訝しげな表情に戻る。
その変化に首を傾げながらも、大感激されすぎたのは事実なので、軽くうなずいた。
「うん。大喜びされすぎて、キスの嵐だったよ」
あの時はまだ慣れてなかったから、ものすごく恥ずかしかったなあ……。
今では慣れてしまった自分が、嬉しいやら悲しいやら。
目の前であんぐりと口を開けている2人にどうしてだろうと思いながらも、ついこの間のことを懐かしく思い出した。
(シベリア師弟ネタとハーデス様ネタを1つに詰め込もうとして失敗。しばらく続きます)
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