一方のは女官に手を借りながら、すっきりとしたフォルムの出で立ちに着替えていた。
としてはシンプルなパンツスタイルがよかったのだが、女官に強硬に反対されたあげく、何故かヴェールまでつけられてしまう。


「……あの、これは?」
「こちらは教皇のご指示でございます。必ずお付けするようにと」
「……シオンが、ねえ……」


まったくあの子はとため息をつきながら、花嫁よりも巫女を連想させるそれをもてあそぶ。
遠くが見えにくく、歩くにもやや不便だ。
これでは、少し離れた場所からでは、表情はおろか顔すら判別がつかないだろう。

わざわざこのような格好をさせるところに平和を感じ、は小さく苦笑した。
どうせ、シオンのきまぐれだろう。


やがて黄金聖闘士の準備が整ったとの知らせを受け、女官に先導されて懐しい回廊を進む。
教皇の間に通される寸前に、シオンから「けしてしゃべってはなりませんぞ」と(小宇宙で)言われたため、口元を引きしめて背筋を伸ばした。


実は結構緊張している以上に、黄金聖闘士達はがっちがちだったりするのだが。


「これからお迎えするのは、アテナの大切な客人だ。失礼な振る舞いをすれば   どうなるか、わかるな?


これから会う人物がとんでもなく大物らしいということ以上に、シオンのオーラが恐ろしすぎて。


ガクブルと震えながら、ミロが横の童虎をつつく。
この状態のシオンに何かできるのは、彼ぐらいしか思いつかなかった。


「ろ……老師、どうしかしてくださいよ!何なんですかあれ、恐ろしすぎるんスけど!」
「うむ……どうしたものかのう。一体客人とやらが何者なのか……」


ない髭をさするように顎に手をやった童虎は、シオンの顔をじっと見て目を細める。
何を考えているのかを見透かすようなその目にも動じないシオンに、ややして小さくため息をついた。
これは無理だ。


「しかし、教皇がこれほどに神経を使う相手とは   ?」


サガが眉根を寄せたそのとき、門兵から件の人物が到着したとの連絡を受けた。
途端に全員の姿勢が伸び、威圧感を与えるような雰囲気になる。
その中を静かに入ってきたのは   年若い女性だ。

ヴェールに阻まれて素顔はよく見えないが、ぴんと伸びた姿勢と足取りがそれを示していた。

両脇に控える黄金聖闘士には目もくれず、彼女はまっすぐにシオンの元へと向かって行く。
ある程度の距離を保って立ち止まり、しかしけして頭を下げようとはしないその姿に、部屋中に動揺が走った。


小宇宙も微弱な彼女のその態度は、どう考えても不自然だ。


「教皇に跪かないとは   !」
「何者だ!?」


口々に呟く黄金達をヴェールの奥からちらりと一瞥したが、いつまで口をつぐんでいればいいのかと視線をシオンに向ける。


今の反応から、どうやら童虎が何も知らされついないらしいということはわかった。
それを見てシオンが密かに楽しんでいることもわかった。
しかしいかんせん、


「飽きた」


のだ。


ぼそりと呟かれた言葉を正確に聞き取ったシオンは、苦笑しながらうなずく。


「もう結構です。やはり貴女は、ありのままが一番いい」
「まったくだよ。ああもう、疲れた!」


全く物怖じしない口調に驚く黄金達の中、その声を聞いた童虎がびしりと固まった。

もう朧になってしまった優しい記憶、その中に響く声。
まさかそんな、いやしかし今の声は、けれどどう考えてももう   

ものすごい勢いで様々な考えが頭の中を流れていく童虎に、呆れたような声がかかる。


「こら、挨拶もできないような子に育ったの?情けない」


ぴしゃりと叱るようなその声に、反射的に背筋が伸びた。
びしりと直立して、腹の底から声を出す。


「はいっ!すみません!!」


ミロがぎょっとした目で視線を向けるが、童虎にとってはそれどころではなかった。

脊髄反射で答えてから、その真実に身体が震える。
まさか、まさか、まさか   


「お   し、さ……ま?」


一文字ずつ途切れるような言い方のせいで、誰もが彼が何を言ったのか理解できなかった。
例外だろうシオンは、にやりと笑ったのみだ。


なあ、今何つった?
知るか、おれに聞くな。
お前はどうだ?
え、俺もわかんねえって。


視線だけでそんな会話を交わす彼らの前で、件の客人がヴェールに手をかけた。
密かに緊張が高まる中、彼女が何のためらいもなくそれを取り去って、そして。


「久しぶりだね、童虎」


ごくごく自然にその名を呼び、そしてそれが当然であるかのように微笑んだ。
仲間たちの驚いた視線が童虎に集中したが、本人はそれどころではないようだ。

ぱくぱくと口を開け閉めし、目をこすってみて、ぶんぶんと頭を振ってみて、それでも彼女が消えないとわかった瞬間、顔が泣きそうに歪む。


「お師様   !!」


弾かれるように駆け出した童虎に、黄金聖闘士達が目を見開いた。


最年長を誇る童虎、その師とはどういうことだ?
しかも、あの童虎が子供のように泣く?


目の前の光景を信じられない彼らの前で、童虎がに飛びついた。
力任せにぎゅうぎゅうと抱きしめられても、は苦笑しながらシオンに目を向けるだけだ。

苦しくないわけがなかったが、童虎の性格を考えれば無理もない反応だ。
そして何より   


「言ってなかったね?シオン」
「言ってやる義理などありませぬ。五老峰に入りびたりの引きこもりめが」
「春麗を独りにしろとぬかすか、この阿呆!お師っ、お師様がいらっしゃると知れば、すぐさま駆けつけたものを   !」


涙でぐしゃぐしゃになりながら怒鳴る童虎と、悪戯が成功した子供のように笑うシオンと。
子供のような言い合いをする彼らに、黄金の誰もが呆然とする。

そんな中でただ一人笑顔を保っていたが、腕を伸ばして童虎の頭をなでた。
男性にしてはやや低めの身長は、彼女にとってなでやすい。


「ほら、もう喧嘩は終わり。シオンも、あまり意地悪をしないの」
「……はい」
「……わかりました」


ぶすくれた表情でうなずいた2人に笑い、は黄金達に向き直った。


「改めて、初めまして。一応日本出身のです。この子達が小さい頃に、師匠まがいのことをやってました」