にこやかに紡がれたその言葉に、黄金達の動きがぎしりと止まった。
ついでに思考も止まった。


   ええと、うん。
聞かなかったことに   できるはずがない。

御年260歳超えの彼らの師匠というと   


「……なあ、アンタ。年、いくつだ?」
「デスマスク!女性に年齢を尋ねるなど   
「ああ、いいですよ。ええと   23、いや24……かな?数年間意識がなかったから、その辺どうも曖昧で」


叱咤しかけたサガにひらりと手を振って、は苦笑しながら頭をかいた。
お恥ずかしいと視線を落とした彼女に曖昧にかぶりを振りながら、サガは困惑を隠し切れずにシオンを見る。


「教皇……これは一体」
「このお方は正真正銘、我らの師。この小宇宙を間違う訳があるまい」
「しかし   


20代半ばだという女性、200歳をとうに過ぎているシオン達。
どう考えても計算が合わない。

納得のいかないサガ達を見かねてか、がシオンに一歩近づいた。
ついでに、彼女にしがみついたまの童虎も近づいた。


「シオン」
「はい」
「この人達は、間違いなく黄金聖闘士なんだよね?」
   はい」


一呼吸だけためらいつつも、シオンがはっきりとうなずいた。
それを確認して、がサガ達へと向き直る。


「私の生まれは日本、育ちも日本。ただ、ある日違う世界へと飛ばされました。そこでまあ   星を救う、旅というものをしまして。その途中、一度事故でこちらに戻ったことがあります」


シオン達とはその時にと続けるに、デスマスクが鼻で笑った。


「異世界からの来訪者、ってか?はっ、信じらんねえな」
「デスマスク、貴様!」
「童虎。すぐ頭に血がのぼるのは、お前の悪い癖だよ」


飛びかからんばかりの形相で咆えた童虎を、の涼しい声が止める。
ぐるりとその場を見渡して、細い顎がなるほどと軽く引かれた。
ほんの一瞬だけ、その表情に寂しさが走ったのは気のせいだろうか。


「この世代交代は、みんなの意思で行ったものじゃないんだね?」
   はい、お師様」
「……みんな、星に還ったんだね……」




私を置いて。




おそらくは誰にも聞かせるつもりのなかっただろう呟きは、しかしシオンに微かに届いてしまった。
そしてもう一人、神経を研ぎ澄ませていたシュラの耳にも。

限りない寂しさと切なさを内包したそれは、シュラの警戒を解かせるには充分だった。
そして、シオンの葛藤をさらに深いものにするにも。


「ジジイも先代も死んでしまったなら、私のことを証明するのは難しいけど   ベスに会えば、きっとあの子が話してくれるでしょう」


懐かしい再会に胸を弾ませながらそう言ったは、早く会わせてくれとシオンに視線で訴えた。
それを受けたシオンが、何かを覚悟するかのように目を伏せる。


   ベス。


彼女は以前にも、しきりにその名を口にしていた。
一体誰のことを指しているのかと眉根を寄せたカミュの向こう、シオンも瞼の裏で思いを巡らせる。

自分の背後、この垂幕の向こうには、すでにアテナが待っている。
しかしそれは、城戸沙織。
彼女が待ちわびるベアトリクスではないのだ。


会わせていいものかと、今更ながらに迷いが生じる。
しかし、いつかは会わせなくてはならないことは明らかだった。
ゆるりと目を開けたシオンは、よく通る声で奥の間へと呼びかける。


「アテナ。   お入りください」


さあ、   懐かしい再会へと。