「……生きてるって……確かにそうだけどさ……」


ついでにケアルガくらいかけてくれよ。


冗談ではないほどに痛む両脚に呟き、は地面に倒れたまま空を仰ぎ見る。
メテオが迫る空ばかり見ていたせいか、青い空が目にまぶしかった。


「そっか……空って青いものだったな」


そんな簡単なことも忘れていた自分に苦笑し、小さく吐息をもらす。

ここはまるで、以前一時を過ごしたギリシアのようだとぼんやり思った。
実はライフストリームに呑まれたのは、あの時で2回目だったりする。


あの時面倒を見た子供達は、立派に聖闘士とやらになれたのだろうか。
そう考えながらMPの回復を待っていたは、攻撃的な気配を感じて身を強ばらせた。


「……HPもゼロに近いってば、私……」


まずいまずいまずい。
どうする、俺!?(これはカード会社のCMだったと、一瞬後に思い出した)


とにかく愛刀ティルナノグだけは手放すまいと、左手を固く握りしめる。


右手にはミネルバブレス、額にはサークレット。
大丈夫だと、自分に言い聞かせた。


数えきれないほどの戦闘を繰り返して、仲間とともにセフィロスを倒した。
その自信が今のを支えていた。


一度ゆっくりと目を閉じて、次に開いたその視界に映ったのは、ジンジャーヘッド。


「この聖域にここまで侵入するとは……何者だ」


足音もたてずにやってきた刺客は、しかし両脚を骨折してぴくりとも動けない状態のを見て、酷く驚いたようだった。
そして彼女もまた、青年の防具を見て目を見開く。




「……レオ?」




以前翔ばされた世界で親しかった聖闘士、彼とうり二つの聖衣を纏っていたのだ。
だがしかし、同じなのはそれだけで、顔も気配も似ても似つかない。

の呟きを聞きとがめた青年は片眉を上げ、そのまま右手を彼女に向ける。


「私の名はカミュ。水瓶座アクエリアスのカミュだ。獅子座レオではない」
「ああいや、星座の獅子レオじゃなく……そっか、今はあなたが水瓶座アクエリアスなんですね」


純粋なあの少年は死んでしまったのか。
寂しさと悲しさがこみあげるが、それをこらえて青年を振り仰ぐ。


「非常に申し訳ないけれど、両脚がイっちゃってるので……ベスと教皇のところに連れて行ってもらえませんか?ずいぶん心配かけただろうし   って、こらこら何なのその攻撃的な気配は」
「問答無用!!」


カリツォーで一気に拘束しようとしたカミュは、しかし次の瞬間我が目を疑った。


「な   カリツォーが!!」


一時は確かに彼女にまとわりついた氷のリングが、かき消えるように霧散したのだ。
当たり前のようにそれを見ていた少女は、驚愕するカミュを見て首を傾げ、次いで納得したようにうなずいた。


「ああ、カリツォーって冷気属性ですよね?今のを見てると。それなら効きませんよ、ミネルバブレスは冷気属性無効化も入ってますから」
「ミネルバブレス……?」
「防具ですよ、防具。とにかく、ベスのところに連れてってくださいってば」


にしてみればそれは当然の要求だったのだが、カミュは訝しげに眉根を寄せるだけだ。


「ベスとは何者だ?」
   は?」


何を言っているんだ、この二股眉毛は。


こちらも負けず劣らず訝しげになったを抱き上げ、カミュは光速で走り出す。


「痛い痛い痛い痛い!!」
「どちらにせよ、不審者は教皇に報告しなければならない。行くぞ」
両脚イってるっつっただろ!もうちょっと気を遣って歩け馬鹿!!」


悲鳴を上げるにがすりと殴られ、カミュはうるさそうに立ち止まった。


「お前が歩けるようになったら、アテナに危険がおよぶだろうが」
「だから、どうして私がベスに危害を加えなきゃいけないの?」


だから、ベスとは一体何者だ。


そう訊きたくなるのをこらえ、カミュは小さくため息をつく。


この女は聖域関係者なのだろうか。
仮面をしていないから、女聖闘士ではないことは確かだが   
どうにも話が噛み合わない気がしてならない。


見るからに東洋系の顔立ちの少女を見下ろしていると、当の本人に首を傾げられた。


「何か?」
「いや」


女官の身内だろうか、だとすればベスという名の女官をここに連れてくれば万事うまくいく気がする。
しかし、女官ごときの身内が、この聖域に入ってこれるだろうか。
海闘士や冥闘士である様子もないが、だからこそ怪しい。


内心で警戒しつつも、今度はきちんと歩き出したカミュに、がほうと安堵の息をつく。
先程よりは傷に響く痛みが少ない。


「……添え木でもしてくれればいいのに……」


もののついでと恨みがましく呟いてみれば、何とも言えない表情をしたカミュと目が合った。
しばしの睨み合いの末、先に目をそらしたカミュが氷の棒を作り出す。

彼としては脚全体を氷漬けにする方が簡単なのだが、それができないことは先程で証明されていた。


「冷たそう……」
「溶けはせん。我慢しろ」


ハンカチを裂いて彼女の両脚を固定すると、後の判断は教皇に任せようという気になっていた。


全盛期の力を誇る今の教皇ならば、こんな小娘一人など赤子のようなものだろう。
今ここで、自分が無理に関与しなくてもいい。


そう決めると、腕の中の存在をしっかりと抱えて再び歩き出す。


「体力回復したいんで、しばらく意識飛ばしますね。重くなるけど気にしないでください」


そんなカミュの内心を知ってか知らずか、はそう告げるとすぐに目を閉じた。
ややして増えた重量感に、カミュは鈍く頭痛が襲ってくるのを感じる。


……一体何なんだ、この娘は。

緊張感が全くないところが、かえって怪しすぎる。
ついでに服装も怪しい。
武器の帯佩も、この聖域では許されていないというのに。




   教皇にお任せすればいい話だ」




ある意味責任放棄とも呼べることを呟き、彼は先程よりもさらに心もちゆっくりと歩き出す。


目指すは十二宮の先、教皇の間。