やや乱暴に揺さぶられたが両脚の激痛と共に目を覚ますと、そこはすでに控えの間だった。
「もうすぐ教皇へのお目通りがかなう。武器を離してもらおうか」
「え、嫌ですよ。これは私の相棒みたいなものですし、第一あのじいさんならそんなの気にしませんって」
威圧的なカミュにも動じずにけろりと拒否したは、しかし青筋を立てんばかりの相手を見て、これは昔の死語で言うMK5かと眉根を寄せた。
何か代わりにないかと考えて、腰につけていた麻の袋を差し出す。
「ええと……それじゃあ、これを。ものっっっすごく大切で貴重で高価なものだから、捨てたり壊したりしないでくださいよ!?」
色とりどりのマテリア。
あの星と自分をつなぐ、ただ一つのもの。
マスターレベルまで入っているそれは、金銭的なことを抜きにしても、とても大切なものだった。
「高価……これが?」
ずしりと重い袋の中身を確かめて、カミュが僅かに眉を顰める。
確かにあまり見ないものではあるが、どう考えても宝石の類ではない。
うろんげなカミュに対し、は小さくうなずいた。
「日本円にして……ええと」
宿屋の相場が大体100ギル〜200ギル。
観光地では250ギル程度。
贅沢をしないホテルと換算すると、素泊まりで8000円=250ギルか。
マスターレベルが山程あることを考えると 。
「計算もできない……。多分、兆とかそういう単位ですよ」
疲れたようにかぶりを振ったの言葉に、カミュがびしりと固まる。
……この玉が、本当にそんなに価値のあるものなのか。
確かに不思議な輝きを放ってはいるが、それほど高価とは思えない。
葛藤のあまり回転の鈍った頭で、それでも必死に考える。
そうしている間に、女官が滑るように部屋に入ってきた。
カミュよりも先に気づいたに礼をし、教皇が待っていると告げる。
ついそのまま立ち上がろうとしたカミュに、がこれ以上ないほど恨みがましい声をあげた。
「……歩けないんですけど……」
「あ……ああ、すまない」
カミュに慎重に抱き上げられながら、はそっと自身のMPを確かめる。
ケアルガまではいかないが、ケアルラなら2回ほどはかけられそうだ。
そう判断すると、口の中で小さく呪文を唱えた。
淡い光が彼女の身体を包む。
ぎょっとしたようにカミュが身体を固くする気配がしたが、脚の痛みと倦怠感がずいぶん軽くなったは小さく息を吐いた。
「今のは何だ?」
「怪我と体力を、少しだけ回復させました。ずっと痛いままでいるなんてマゾじゃないつもりなので」
「全快ではなく ?というより、一体どうやって……?」
怪訝な顔をするカミュに笑って、は懐かしい教皇の間の扉を見る。
「全快させるほどの力がないんですよ。 ほら、着いた」
この向こうに、ベスと教皇がいる。
なぜこの場所を知っているのかと怪訝そうなカミュをよそに、は嬉しさを隠しきれない。
踊りそうになる胸をおさえて扉の向こうを見据えていたは、しかし開いたその先にいた人物に目を瞬かせた。
それとは正反対に向こうは息を飲んだようだが、それよりも記憶との齟齬の方が気にかかる。
「ええと……代替わり、したの?それにしては見覚えが 」
「 お師様……?」
ない、と言おうとした瞬間、高座にいた青年の口からかすれた声がもれた。
「え?」
こんなにでかい弟子はいない。
戸惑ってカミュを見上げるが、彼もまた戸惑っているようだ。
どうしたものかと考えあぐねた挙句、とりあえず形式通りにすることにしたらしい。
「水瓶座のカミュ、侵入者を捕らえて参りました」
静かなその声が聞こえていないのか、教皇はあろうことか椅子から立ち上がって高座を降りてきた。
「教皇!?」
驚いたようなカミュの声を無視して、教皇はどこか急いた様子で彼らのところまでやってくる。
揺れる瞳でじっとを見つめる教皇の顔に、彼女は妙な既視感を覚えた。
どこかでこの顔を、見たことがある気がする。
どこかでこの瞳を、見たことがある気がする。
けれど どこで?
ぐるりぐるりと回る思考に終止符を打ったのは、当の教皇だった。
「お師様……やっと、会えた !」
微かに震える声でそうささやかれた瞬間、の脳裏で目の前の青年と幼い弟子がだぶった。
まさか、まさか。
「……シオン?」
信じられないといった気持ちで呟くと、青年は彼女の手を両手で固く握ったまま、崩れ落ちるように床に膝をつく。
「ずっと お待ちしておりました」
それは、万感の思いがこめられた、とてもとても重い言葉だった。
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