部屋に差し込む光の角度で、どうやら寝過ごしてしまったらしいとは苦笑した。


「平和になった後の醍醐味、ってやつ?」


世界は違えど、まさにそんな言葉がぴったりの気分だ。

いつの間にか身体や服が清められていることから、寝ている間にシオンが女官に命じてやってくれたのだろうと推測する。
どの程度眠っていたのかが少々気になるが、ひとまずそれはおいておこう。

むくりと起き上がりながら、そういえばこちらでも聖戦は終わったのだろうかと首を傾げる。
水瓶座が代替わりをしているということは、少なくとも始まってはいるはずだが……戦時にしては、空気に刺すような緊張感がない。




「……ベス?」




何故か、胸騒ぎが、した。


MPが全快していることを確認して、ケアルガを連発する。
急速な回復で逆に骨に痛みが走ったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。


早くベスに会いたい。
会って、あの時と変わらずに笑って抱きついてほしい。


奇妙に焦る胸で4回ケアルガをかけ、さらにリジェネをかける。
まだ思うように動いてくれない身体を引き起こそうとしたところで、扉を開けた年若い女官と目が合った。


「まあ、お目覚めになりましたのね!」
   お世話になったようで、すみません」


バランスを崩さないように慎重に頭を下げながらなおも上半身を持ち上げようとすると、
慌てた様子の女官に肩を押さえこまれる。

軽い動作、たったそれだけで肘が砕けてベッドに逆戻り。
思わぬ事態に、は大きく目を見開いた。




「……え?」




何で、どうしてこれくらいで。
混乱しかけた耳に飛びこんできたのは、やはり信じられない言葉。


「そのような、急に動かれるなど!1週間以上もお眠りだったのですから、どうぞご自愛くださいな」


   1週間!?


そんなに長い間、ころりと意識をすっ飛ばしていたつもりは全くない。
というか、あったら恥だ。
どんな重傷でも、今まで3日以上伏せっていたことなどないのに。


何が原因だと考えて、真っ先にライフストリームへの旅行を思いついたが、これは即座に却下。
そんなもので意識が吹っ飛ぶはずがない。

栄養不足やら睡眠不足やら、その他の原因を片っ端から考えては切り捨てていく中、実に単純な理由を思い出した。


「……あ、そっか」


回復役が、いないのだ。

そもそも今までは全員が死にかけるような強行軍をしたこともないし、ましてや常にグループ行動。
全員MPゼロなんて事態になる前に宿を取っていたし、となれば必ず誰かが重傷者の回復役に回っていた。
たかがケアルガを2回かけた程度で眠ったならば、そのまま昏睡状態に陥っても何ら不思議はなかった。


「一人って、こういうことか……」


今更ながら、仲間の大切さが身にしみてわかった。

仲間がいるならできる無茶もできない。
本当に、自分の身を自分で守るしかなくなる。

精神的な支えを失うこと以外の思わぬ弊害に、は気だるさをこらえて瞬いた。


「すぐに教皇にお伝えして参ります。それまでどうぞ、安静になさっていてください」


早足で出ていった女官を何となく見送り、はざわめく胸を押さえて長いため息をつく。


早くベスに会わなければ。
お互いもう二度と会えないと思っていたから、どれだけ喜んでくれるだろう。


そう考えると心が浮き立つはずなのに、どうしてこんなに胸騒ぎがするのだろう。


きっと疲れているからに違いないと自分を納得させ、自分にあてがわれた部屋を改めて見回す。

数か月前にシオンや童虎と暮らしていた頃に住んでいた家がほぼ入るのではないかと思えるほど広いそこは、長い間使われていなかったことを示すように、人のいた気配が全くなかった。
あちらこちらに置かれは調度品はセンスのよさをうかがわせるが、それでもどこか無機質で寂しい。
広すぎるこの空間も相成って、どこか落ちつかない気分にさせられた。


「何だかなあ」


もうないとはわかっていても、3人で過ごしたあの小屋がひどく懐かしい。

ガレキだけでも残っていないだろうか、後で行ってみようか。
壊れていてもいいから、使っていた小物の一つでも見つけられれば御の字だ。

こっそりとそんなことを考えていたら、シオンが滑るように入ってきた。


「お師様」
「おはよう、シオン。ずいぶん寝過ごしちゃったみたいだね」


ほっとしたように顔をゆるめたシオンに微笑みかけ、今度こそ起き上がろうと腕に力をこめる。
シオンも私の性格をよく知っているからだろう、無理に押しとどめようとはせずに、背中に腕を差し入れて起き上がるのを補助してくれた。


「お身体は」
「大丈夫だよ」


心配そうに眉を顰めた弟子に笑って、床に足をつけようと身体をねじる。
ただそれだけで、見る間にシオンの眉間に皺が寄った。