一体どうしたというのか。
以前と変わらぬやりとりだったし、特に不審な点もなかったはずだ。
内心首を傾げるに、シオンが低い低い声を出した。
「……お師様」
「何?シオン」
「ど こ が 大丈夫ですか」
ずずいと詰め寄られ、反射的にのけ反りそうになる。
けれどそれも、背中に当てられたままのシオンの腕によって阻まれた。
「……いや、大丈夫だ」
「動きもぎこちない、動作も鈍い、あげく私の補助を文句も言わずに受け入れる!これのどこが大丈夫だと言えるのです!?」
明らかにおかしいと眉をつり上げるその姿に、ベスの姿が重なる。
そういえばベスも、ちょっと無理をしただけで怒ったっけ。
仕方がないので起き上がるだけにとどめ、11年ぶり(彼女にとっては数か月ぶり)の弟子をとっくりと眺める。
「ずいぶん大人になったねえ、シオン」
「永き時が経ちました故、お師様の記憶よりは成長もしましょう」
まるで子供だった四肢もすっかりしなやかにたくましくなり、顔からも丸さがなくなってしまった。
それでも昔と同じく綺麗な顔立ちをしているのは、さすがといったところか。
童虎は子供ながらに男らしい顔立ちをしていたから、きっと見るからにたくましい青年になっているのだろう。
そう考えたら、もう一人の弟子が無性に懐かしくなった。
「ねえ、童虎はどうしてるの?」
「あやつにはまだ知らせておりません。お師様が帰っていらしたと知ったら、大騒ぎするにきまっておりますからの」
「ふふ、お前らしいね」
確かに童虎ならば、知ったと同時にこの部屋に駆けこんできて大騒ぎしそうだ。
そして大泣きしているところで、シオンに雷を落とされるに違いない。
全く変わっていないらしい愛弟子達の性格と力関係に、思わず笑いがもれた。
「童虎は天秤座だっけ?」
「はい」
「全身武器の聖衣だった気がするけど……やんちゃなあの子にぴったりだね。はしゃぎすぎて部品をなくしたりしてないのかな」
の知る童虎ならば、はしゃぎまくって分解して遊び倒したあげく、何かをどこかに置き忘れて大騒ぎをしていそうだ。
半泣きであちこちを探し回っている童虎を想像して苦笑していると、シオンにゆっくりと頬をなでられた。
「 お師様に、お話せねばならないことがあります。早く万全の体調にお戻りください」
「わかったよ、シオン。身体の方は大体治ったから、あと数日でHPもMPも全快するんじゃないかな」
「HP……MP?」
彼女としてはごくごく普通の表現だったのだが、首を傾げたシオンの姿を見て、ようやく概念が違うことを思い出したらしい。
ここでは剣や魔法の代わりに、小宇宙なんぞというけったいなものを使うのだった。
どう表現すれば伝わるかと焦りながら、慌てて言い直す。
「体力と……魔力。魔力はわかる?」
「概念としてならば」
小さくうなずいたシオンに安堵の笑顔をもらし、さらに説明を続けた。
「今の状態だと、体力にあたるHPが7割、魔力にあたるMPが1割を切ってるかな?さっき回復呪文を連発しちゃっんだよね」
もう、ファイアやサンダーなどの基礎魔法を数発放つぐらいの魔力しか残っていない。
ここで全てのMPを使い切るのも一つの手だが、あまりにも危険すぎた。
水瓶座が代替わりしている以上、聖戦が続いている可能性は残っているのだから。
仮に終わっていたとしても、万一に備えて多少の余力は残しておきたい。
ここの住人ならば、基礎魔法程度でも充分に驚いて目くらましにはなってくれるだろう。
「それは……」
シオンもそれほどまでに消耗しているとは思わなかったのだろう、絶句したきり黙りこんでしまった。
そんな彼に苦笑して、はゆっくりと身体を倒す。
慌てて背を支えるシオンに微笑みかけ、おやすみと小さくささやいた。
「少し眠るよ。数日間意識が吹っ飛ぶかもしれないけど、あまり気にしないで。栄養さえ点滴で与えてもらえれば、私は特に問題ないから」
「はい」
素直にうなずいたシオンを視界の隅に入れ、はゆっくりと目を閉じる。
そういえば、この時代に点滴はあっただろうか。
ああ、寝る前に水を飲んでおけばよかった。
そう思ったのを最後に、ゆっくりと意識を沈めた。
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