何だかんだと用事を作っては、幸村さんは私のところにまで訊きに来てくれる。
認めてもらえているようで嬉しいけれど、多分他の先輩に訊いた方が確実なことが多いのも確かだ。
先輩達は試練だーなんて笑って見ているだけで、特に幸村さんを止めたりはしてくれないらしい。


間違ったことを教えちゃったらどうしてくれるんですか、先輩!


さん、このセグメントの分け方なんだけど……さっき送ったファイルの通りでいいのかな?」
「あ、ちょっと待ってください!今確認します」


わざわざ席を立ってきてくれた幸村さんに返事をして、慌てて社内メールを確認する。
添付されたエクセルを開いてみると、ごっちゃりとしているうちの各部署がすっきりまとめられていた。


開発と管理と営業、どれも間違いはな   ん?


「幸村さん……クオリティサポートは、管理系じゃなくて開発系なんです」


サポートと名前がついているから管理系かと思いきや、ここの業務は開発商品の最終チェック。
私も入ったばかりの頃は、よくわからずに混乱していた。

幸村さんでも間違えるのかと思うと、何だか親近感がわいてくる。
わかりませんよねーと笑いながらちょいちょいと直して、ついでにピポッドにも反映させた。
そういえば、この形のフォーマットファイルがあったんじゃないだろうか。


「幸村さん、ちょっと待っていただけますか?」


データベースをあちこち開いて、それらしいファイルを探してみる。
『セグメント別売り上げ目標』……違う、『各部門進捗データ』……これも違う。
もしかして、開いてるカテゴリーが違うのかな?


「確か、こういうのがまとめてあるファイルがあるはずなので……見つけたらお送りします」


元になるフォーマットがあれば、マクロで数字を入れ換えればいいだけになる。
元データから引っ張るだけでいいから、かなり作業が楽になるはずだ。


「ありがとう。助かるよ」
「いえ、これくらいしかできませんから……」


アシスタントのような業務をするくらいしかできないのが歯がゆいけれど、部門を一人で担当するにはまだ早すぎる。
これが今の私の精一杯だ。


さんは、よくできてると思うけどなあ。中澤さんも褒めてたよ」
「ええええ」
「本当だって」


思わずうさんくさげな目で見てしまうと、幸村さんはおかしそうに笑った。


「この間一緒に飲みに行ったんだけど、ずいぶん頑張ってるって」
「嘘だあ」


ぽろりと言ってしまってから、慌てて本人に聞こえていないかと辺りを見回してしまう。

幸いにも回りの先輩達はみんな担当部署に出かけていて、当人はおろか誰にも聞かれた様子はなかった。
ほっと胸をなでおろした私に笑って、幸村さんがちらりと時計を見る。


「もうすぐお昼だね。今日は何を食べるの?」
「同期がガッツリいきたいって言ってるので、韓国料理屋さんに行こうと思ってます。おいしいところが近くにあるんですよ」


今日のランチは法務の子とだ。
最近色々とストレスがたまっているらしく、この間も飲みに引っ張り出された。
今度はどんな鬱憤がたまっているやら。


「へえ、いいね。今度教えてくれないかな?」
「田原さん達もご存じですよ!私、田原さんに教えていただいたんです」
「そうなんだ」


じゃあ、今度連れて行ってもらうよ。


楽しそうにそう言った幸村さんは、ありがとうともう一度お礼を言って席に戻っていった。
   あ、ファイル探さなきゃ。












「いいねー、その先輩!かっこいいし優しいし気遣いうまいし、もう言うことないじゃない!」
「いやあ、完璧すぎてむしろ怖いよ。今日初めてミスを見て、この人でも間違えるんだって安心したもん」
「ああ……いるよねえ、そういう人。本当に同じ人間!?みたいな」
「そうそう!びっくりだよ、ほんと」


がつがつとビビンバをかきこむ同期にうなずきつつ、白鶏湯にご飯を入れてなじませる。
お行儀が悪いと言われようが、この食べ方がまたおいしいんだって!
おじやとかワンタンスープには最後にご飯を入れて楽しむタイプです、私。


「それより、最近どうなの?こないだはずいぶんやけっぱちだったけど」
「そうなんだよー!ちょっと聞いてよ、うちの彼氏ってば!」


ちょっと水を向けると、おもしろいほど食いついてくれた。
スプーンでびしりと私を指して、彼氏がいかに空気を読んでいないかを力説される。


「疲れてるって言ってるのに、あっちこっち引きずり回して喜んでるし。基礎体力からして違うんだって」
「体育会系の部活やってたんだっけ、彼氏」
「うん。こっちは大学時代何もしてないから、ただでさえついてくのが大変なんだよね」
「そっかあ。私も無理だなあ、体育会系のはしゃぎっぷりについてくの」


法務部ではもうすでにいくつか契約を振られているらしく、最近の疲れっぷりは見ているこちらがはらはらするほどだ。
食べて飲んでストレスを発散しているようだけれど、彼氏とのデートがストレスになるようじゃ、本末転倒な気がする。


「でも、別れようとは思わないんでしょ?」
「そりゃ、ね。元々そういうところがあるのはわかってたし、どうしても我慢できなくなったら考えるよ」


ひょいと肩をすくめた同期は、もうそれで愚痴をやめたらしい。
というよりも、ストレス発散のはけ口を変えたらしい。


「でさ。さんは彼氏、いないの?」
「いるわけないでしょ!もてないし、私」
「嘘だー!もてそうだよ、さん」
「いやいやいやいや」


自慢じゃないが、これまでの人生で付き合ったことがあるのは一回こっきりだ。 しかも半年。
付き合うということがいまいちよくわからない私には、ちゃんと幸せそうな同期がうらやましかった。