思い返すのも忌々しい!
そんな最低な出会いは、結局薄れることはないけれど。








ガブリエルが目覚めた時









お母さんに頼まれて亮の家にお使いに行ったら、何故か亮のものじゃないローファーが2つ、綺麗に並んで揃っていた。
見たところものすごく上等な靴みたいだし(私達がよくはいている、ハ○タのとはメーカーが違う)(絶対特注だって、これ)、亮にもこんな知り合いいたんだ……。

さすが氷帝、金持ちが揃っているようだ。


そんな中で亮がうまくやっていけてるのかちょっと心配になりながら、おばちゃんの後について台所へ。


ええ、もう、どの野菜をどこにしまったらいいかまで知っていますとも!
伊達に食事を食べさせたりごちそうになったりしてないもん!


「おばちゃん、ここに入れとくね」
「ありがと!ついでだから、これ持ってきなさいな」


叔母ちゃんちから送られてきたさくらんぼを野菜庫に放り込むと、代わりにと野菜をどっさり持たされた。
ちょ、いつものことだけど重いって……!


大根とレタスと人参と、他にも色々。
おじちゃんちの実家が農家らしくて、野菜が有り余ってるのはわかるけどさ……。

よっこらせと気合いを入れて背負い上げた瞬間。




「……何だ、この欠食児童は」
「うっわ、見た目もみすぼらしいやん!宍戸、こいつ何なん?」




は ?


何だ今のものっすごく馬鹿にしたみたいな言い方は。
ていうか、両方ともものすごく嫌味ったらしい!

ぐるりと振り返った先には、いらんほどキラキラオーラをまき散らしている男の子が2人。


「……亮。誰、それ」
「あー……」


じとりと据わった目で見据えると、亮は気まずそうにがりがりと頭をかいた。


「同じテニス部の、跡部と忍足。こっちは幼なじみの


めんどくせェっていう雰囲気が丸わかりで簡単に紹介してくれた亮をちらりと見て、お客の2人は完全無視。
おばちゃんだけにぺこりと頭を下げて、さっさとその場を抜け出すことにした。


「おばちゃん、野菜ありがと。さくらんぼはもう食べ頃だから、早めに食べちゃってね」
「わかったわ。ご苦労様、ちゃん」


そのまま玄関に向かおうとしたら、また嫌味ったらしい言い方で呼び止められる。


「挨拶もできねえのかよ、躾がなってねえな」
「……あんた達に挨拶をするほどの価値があると思わなかっただけ。初対面の人間に向かって言う言葉じゃないよね?さっきの」


敬語なんて使う気にもならない。

お父さんだって、今回は許してくれるはずだ。
お兄ちゃんならイイ笑顔で「殺ってやれ。」って言うはずだ。

最後に亮を横目で見て、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「まあ、あんたのことだから、間違いはないと思いたいけど……友達選ぶか、こいつらの矯正した方がいいんじゃない?」


絶対苦労するよ、将来。あんたが。


やっぱり同じことを思っていたらしく、微妙にやっちまったーっていう顔をしている亮の脇を通り過ぎて、どっこいしょと野菜を背負い直した。












「やっぱり一発殴った方がよかったのかなあ」
「一発と言わず殺ってくればよかったんじゃね?」


予想通り輝かんばかりの笑顔で親指をグッ!と下に向けたお兄ちゃんと、コンビニでアイスを物色する。
本当ならお兄ちゃんはこれから塾なんだけど、私があんまり荒れてたのを見かねたらしい。
ハーゲンダッツのクッキーで挟んであるやつ(名前忘れた)買ってくれた!




「気をつけて帰れよー」
「頑張れ受験生ー」




ひらひらと手を振りあって、そのまま左右に別れる。
溶けないうちに早く食べなきゃとぱりぱりかじっていたら、前方に嫌な顔を発見。

思いっきり顔を歪めたのがわかったんだろう、向こうも無駄に整った眉を盛大に顰めた。


「……せっかくアイス買ってもらったのに……」


さっきまでの気分が台無しだ、こんちくしょう。


、今帰りか?」
「や、お兄ちゃんにアイス奢ってもらったとこ」


できるだけ2人を視界に入れないようにして亮に答えて、そそくさと通り過ぎようとする。
その瞬間、丸眼鏡がくつりと笑った。




「お前の兄貴や、たいしたことないんやろなぁ?」




   は?


こいつ、お兄ちゃん知らないくせに何言ってんの?



「……亮、いい?」
   今回だけだぞ。一応俺のダチだからな」
「オッケー。……というわけで、一発殴らせてください、丸眼鏡」



亮もこれは言い過ぎだと思ったんだろう、真顔で即行うなずいた。

ほら、一応亮の友達だし。
私のせいで仲が悪くなると悪いし。

無事に許可が取れたところで拳を握りながら宣言すると、丸眼鏡はおかしそうに笑いながらうなずいた。


「おー、ええで?お手柔らかにな」
「お手柔らかになんてするわけないでしょ。しっかり腹筋に力入れてくださいね」


わざと敬語で言い放ち、にやにやと笑う丸眼鏡の腹筋に狙いを定める。



「せぇのぉっ!」



どす、と鈍い音。

手加減なんてしてやらない、お兄ちゃんとの喧嘩だって、手を抜いたら死ぬほど痛い目に遭うだけだもん。

しゃがみこんで無言で悶える丸眼鏡に、力一杯鼻を鳴らしてやった。


「こんなみすぼらしいガキのパンチも受けられないんですか。だっさ」
「…………っ!!」


「あのさ、人を馬鹿にするからには、それなりの代償を受けるべきなんですよ。今までは何をしても周りがはいはいって従ってくれたのかもしれませんけど、社会に出たらそんな我侭通りませんよ?いい加減大人になってくださいよ、年下にこんなこと諭されるってこと自体が恥ずかしいことなんですから」


我ながら小学生らしくないとは思うけど、しょうがないじゃんか。
お兄ちゃんはもう高3だし、亮も子供っぽい方じゃないし。

こんな環境にいたら、嫌でも老けますって。

ふう、とため息をついたら、泣きぼくろの方がいきなり爆笑し始めた。


何この人、大丈夫なの?


顔を顰めた私ににやりと笑って、泣きぼくろがそのまま右手を差し出してくる。


「お前、思ったよりもおもしろいじゃねぇの。馬鹿でもなさそうだな」
「それは私に喧嘩を売ってると解釈してもいいんですよね」
「馬ー鹿、認めてんだよ。この間はいきなり悪かったな、俺は跡部景吾だ」

笑顔で拳を固めたら、それに動じずにさらりと名乗られた。
正直言ってあんまりよろしくしたくはなかったけど、まあ悪い奴じゃないんだろうと結論づけてその手を握る。


です。一応、来年は氷帝を目指してるんで」
「何や自分、うちに来るんか」
「あんたはそのまま地面に這いつくばっててください」


ひょいと会話に参加してきた丸眼鏡を見ようともしないで言い返すと、きっついなぁと苦笑した丸眼鏡がちゃんと立ち上がった。


「俺も、いろいろ悪かったな。言い過ぎたわ」


忍足侑士と名乗られて、嫌々ながら握手をする。
まあ別に、テニス部に入るわけじゃないし、むしろ関わるつもりもないし。
来年になったら忘れてるだろう、そんな軽い気持ちで交わした挨拶。












「だったんだけどね。入ってみたらテニス部は無意味にアイドル級だし、跡部先輩も忍足先輩も超有名人だし。おまけに忘れてくれてなかったし」

「いや、普通忘れねえだろ」
「俺もそう思うな……」


舌打ちをせんばかりに先輩達とのなれそめを話したら、鳳君がちょっぴり青い顔で腹筋を押さえた。
想像したら痛くなってきたんだろう。


「だからもう、これ以上テニス部とは接点を持ちたくないんだよね。色々面倒だし」
「でも、先輩達はいい人もいるけど……」
「わかるけどね。周りがうるさいでしょ、特に鳳君が言う先輩ってレギュラーの人だろうし」
「う……」


図星だったらしくたじろいた鳳君に苦笑して、殴った瞬間の忍足先輩の表情を思い出す。


今思えば、あの頃は忍足先輩もまだまだ子供で、ちょっとした嫌味みたいな気分だったんだろう。
けれどその時は私も今よりもっともっと子供で、兄貴に対する侮辱が許せなかった。


ただ、それだけの話。


お互い子供で、相手の痛みに想像がつかなかった。
兄貴以外を本気で殴ったのはあれが初めてで、あの時初めて兄貴のレベルのすごさを思い知った。


他人に手を出すときは気をつけようと思えた分、忍足先輩にはこっそり感謝している。
……多分、本人は冗談じゃないと全力で拒否するだろうけれど。


「さあて、次の物理も頑張りますか!」
「物……っ!やばい、宿題忘れてた!!」
「あはははは、6時間目でしょ?次に内職すればいいじゃん」
















忍足はどうしてヒロインの拳の凄さを知ってるんですか、という質問があったので。
仮にも先輩に向かって手をあげるような失礼な子ではないので、忍足が彼女の拳を味わうんなら、ちょうどこのくらいかなあ…。とか思いながら書いてました。
まだ11歳とか12歳とか13歳とかなので、口調も少し子供っぽく!