「さて」
目の前に並べられた材料を見て呟く。
戦争の始まりだ。


基本的に時間をかけるのは好きじゃないから、亮とテニス部の先輩達に贈るものは同時進行でざざっと進めていく。
チョコクランチは比較的簡単で喜ばれるから、どんどん作っていった。

途中で伸びてきた兄貴の手は、無言ではたき落として。
日吉の分も   一応カモフラージュで作っておいた。


全てのクランチを作り終えて、一呼吸。
いよいよ本命、ガトーショコラのお出ましだ。
作ること自体はそんなに難しくないけれど、やっぱり気持ちの問題で。
小さな小さな型だけれど、ホールで渡したい。


ー、俺には?」
「兄貴にはブランマジェ」
「お、わかってんじゃん」


にんまりと笑った兄貴に、思わずため息が出てしまった。
ちゃんと彼女がいるのに、妹にねだるとはこれいかに。


「彼女からもらえるんでしょ?私に催促しないでよ」
「だってあいつ、料理壊滅的に駄目だもん。あっちは出来物だから、やっぱ手作りのもほしいだろ」
「愛で食え」
「愛でも食えないものはある」
「大丈夫、チョコ溶かして固めるだけで手作りだから」
「俺の中では手作りにならん」
「わがまま者め!!」


まったく、どんな駄々っ子だ。
生地を混ぜながら、こっそりと重いため息をついた。
我ながら、馬鹿な兄貴をもったものだ。

なんて思っていたら、ソファにふんぞり返っていた当の本人が、おもむろに声をあげた。


「あー、
「何?」
「そういやさ、前に話した奴いるじゃん?」
「は?誰?」
「ほら、お前のこと好きな奴」


思わず手元が狂った。
危ない危ない、あと少しでボウルをひっくり返すところだった。


   いたねぇ、そんな人」
「そいつ、バレンタインにお前に告白してくるかも」


今度こそボウルが傾いた。
中身がこぼれそうになったところを、根性だけでくい止める。


「……生物学上は男なんじゃなかったの?」
「れっきとした男だな」
「どこをどうしたらそんな行為に及ぶの」


バレンタインは女の子の行事だ。
少なくとも、日本では。それなのに、男女逆転した状況が起きるとはどういうことだ。

頭でもわいたかと兄貴を見ても、いつものように飄々としているばかり。
それどころか、更にとんでもないことを言い出した。


「外国じゃ男が女に花をやるのが普通だろ?むしろ日本がアウェイなんだから、この際思い切って告白したらどうだって言ってやった」
「言うなそんな事!!」
「そいつもかなり真面目で純朴だからなあ、その気になったみたいだぞ」
「乗るなそいつも!!名前は!?」
「んあ?訊いてねぇ」
「つくづく中途半端だなあんたは!!」


……どうやらまた、一波乱ありそうだ。
作りかけのガトーショコラに目をやりながら、重いため息をついた。