金持ちからの挑戦状。
これはそう受け取ってもいいのかしら?









ガブリエルと嵐の日々









バスに揺られること2時間。
到着した合宿所は、やっぱりありえないほど広すぎた。

え、何これ、普通にホテルっぽいよ?
……まあ、200人もいるんじゃ、このくらいの規模じゃなきゃやってけないのかもしれないけど。


、マネージャーの部屋に行くぞ」
「あ、はい」


跡部先輩につれられて歩きだそうとすると、何故かレギュラー陣もぞろぞろとついてくる。
何だ、このカルガモ状態。



「……亮?」
「俺達もこっちなんだよ。つーか、マネはレギュラーの横だよな?」
「はあ!?」



待て待て待て!


「こういうのって普通、マネージャーだけちょっと離れた部屋に入るんじゃないの!?」


男所帯に、仮にも女が1人だよ!?
仮にとか自分で言っちゃってるけど、正真正銘の女だよ!?


「馬ー鹿。いくら氷帝でも、部活1つのためにそこまで金かけてらんねえんだよ」
「じゃあ、あの部室は何なんですか」
「俺様と監督の私費だ」


私費なんだ……。
そんなことするほどこだわってるんだ、跡部先輩……。

正直かなり引いたけど、ここまでくれば何でもありな気がしてきた。

どうやら、跡部先輩でも4人1部屋らしくて、マネージャー1人というのはかなりの贅沢らしい。
そこまで気を遣ってもらってるんだから、それに応えなきゃ女がすたる!


「跡部先輩、練習は何時からですか?」
「30分後だ。準備は3軍の奴らと一緒にやってくれ」
「わかりました」


とはいえ、みんなはユニフォームに着替えなきゃいけない。
加えてラケットとかの準備もあるだろうから、順当に考えて私が一番早く動けるかな。
そう判断して、とりあえずコートへ。


学校以上に広いテニスコート、初めて見たよ。
スクールなんて行ったこともないけど、もしやこんな感じ?

5、6、7、8面か……よくもまあ、こんな設備がある場所を見つけたもので!
ネットの張り方とかは全然わからないから、とりあえずタオルとドリンクの用意。
ええと、後はボールの確認?やばい、全然わからない。
いいや、これも放置で!


さん、もう来てたのか!?」
「暇だしねー。私がちょっとでもやれば、その分練習時間が延びるでしょ」
「サンキュー……!」


ああ、3軍の目が涙で光ってる……。
そんなにこき使われてたのか、こいつら。

あの鬼のようにナルシストな部長を思い浮かべて、今度1発殴ってやろうと決心する。

忍足先輩に続いて、先輩で私に殴られるのは2人目だね!
せいぜい悶絶するがいい!


3軍にネットの張り方やら何やらを教えてもらいながら準備をしていたら、そのうちわらわらと他の部員も出てきた。



「……お前、そんなことまでやってんのかよ」
「雑用なんだから当然でしょ?女テニは自分達でやってるんだから、私ができなくちゃおかしいし」



何故かぎょっとした顔をした日吉にそう言うと、何とも微妙な顔で見られた。




「……何よ」
「……いや」




何でもないと顔を背け、日吉がそそくさと準レギュ用のコートに行く。
入れ違いにやってきた亮は、どっこいせとクーラーボックスを持った私に苦笑した。


「お前、首にタオル巻くのやめろよ」
「汗を取るにはこれが一番なんだってば。髪を結わえられないし、あせもにはなりたくないからね」
「ババくせ」
「うっさい」


呆れたように笑って、それでも私の髪をくしゃりとなでて、亮はボックスを1つ持ち上げた。


「いいってば、あんたは体力温存しときなよ」
「こんなもん1つ持ったぐらいで体力尽きねえよ。向日じゃあるまいし」


……向日先輩、そんなに体力ないんだ……。


亮の心遣いは嬉しかったから、それ以上は遠慮せずに持ってもらう。
重てえとか文句を言いつつもちゃんと運んでくれるあたり、やっぱり亮だ。


「ここでいいよ、ありがと」
「無理すんなよ、きついと思ったらそこら辺の奴使え」
「わかった」


やっぱり心配性の亮にくすりと苦笑して、残りのボックスも何往復かで運びきる。
マネージャーがいるのに雑用とか、申し訳なさすぎてできるわけないじゃない。
タオルもボックスに突っ込んで、氷でひんやり冷やしておく。

玉出しとかはできないから、せめてこれくらいは。


「おーい、足くじいた!」
「今行く!」


ええと、テーピングはどうやるんだっけ?
昔は亮によくやったけど、最近は全然やらないしなあ……。


「足首?」
「うん」


痛い部分を確かめて、なるべくしっかりテーピングをする。


「あんまり動かさないこと!応急処置でしかないんだからね?」
「わかってるって」


へらりと笑った横田(2軍・クラスメート)の頭をばしりと叩き、怖っえーと笑いながらコートに戻る後ろ姿を見送る。


「まったく……これだからテニス馬鹿って嫌いなのよ」


亮もそうだった。

中学でレギュラー落ちをした時、亮はただがむしゃらに練習してた。
見るからにぼろぼろで、こっちが辛くなるほどに。


やめてっていくら頼んでも、絶対に聞いてくれなかった。


さん、俺も手当てしてもらっていい?」


慣れた声に振り向くと、膝からちょっと血を出した鳳君が困ったように笑っていた。
慌てて手当てをすると、驚いたように傷口と私の顔を見比べる。



「……慣れてるね」
「そりゃもう。誰かさん達が昔やった特訓のおかげで、生傷には不自由しませんでしたから」



嫌味っぽく笑ってやったら、ものすごく気まずそうな顔になった。


「あー……その、宍戸先輩の手当て、さんがしてたん……だ?」
「おばさんが呆れて匙投げてからはね」


元からおおざっぱな人だったけど、まさか3日で投げるとは思わなかったよ。
おかげで傷の処置だけはべらぼうにうまくなったよ。
あの頃ならきっと、保健委員よりもうまかった自信がある。




「……すいませんでした」
「わかればよろしい」




ヘコーと謝った鳳君に鷹揚にうなずき、2人で顔を見合わせて笑いあった。

きっと鳳君は、私の様子が変なのに気づいていたんだろう。
彼ほどの人なら、アップ程度の運動で転ぶはずがない。
やっぱり亮のパートナーだなと思うと、こんな後輩がいてくれる亮が誇らしくなった。