優しい幼なじみ、優しい友達。
そして優しい想い人……?
いや、表面上は口が裂けても優しいとは言えないか。
ガブリエルと嵐の日々
予想通りというか、予想以上にマネージャーの仕事はきつかった。
使い終わったタオルはすぐに洗って、新しいものを用意。
ドリンクもこの人数じゃ一苦労も二苦労もする。
おまけに、部員の体調管理。
まだ顔と名前を覚えきってないから、暇さえあれば書類とコートを睨めっこしてる。
「、そろそろ夕飯の準備じゃねえか?」
「……やっば!ありがと、助かった!」
ああもう、時間が足りない!
ええと、食堂はどこだっけ。
着いたときに跡部先輩からもらった地図を思い出して、何とか2分でたどり着く。
氷帝が馬鹿みたいに複雑かつ広くて助かった……。
じゃなきゃ、絶対になれてなくてもっと時間がかかるところだった。
「遅くなりました!」
「いえ、大丈夫ですよ。そこの野菜を刻んでもらえますか?メニューはそこに書いてありますから」
穏やかに笑ってそう指示されて、すぐさま腕まで洗ってエプロンをつける。
任せろ、こう見えても簡単な家事はできる!
味付けはどうにもうまくできないから、下拵えだけをどんどん手伝う。
大きい中華鍋でガンガン炒めていたら、奥の方からおばさんに手招きされた。
「はい」
「それが終わったら、こちらのサラダの盛りつけをお願いします」
「わかりました」
次から次へと出される指示に従ってたら、いつの間にか練習が終わっていたみたいだ。
わらわらとやってきてはお風呂場に直行する男の群れは正直ムサいけど、まあそれは仕方ないだろう。
急ピッチで盛りつけて全部並べ終わった頃には、もうほぼ全員が席に着いてる状態だった。
「、こっち来い」
しっかり私の席までキープしてくれてた亮に感謝しながらそっちに行くと、鳳君と日吉と忍足先輩が固まっていた。
……何で忍足先輩までいるの?
向日先輩と仲がいいものだとばっかり思ってたんだけど……。
「お疲れさん、」
「忍足先輩もお疲れ様です。向日先輩と一緒じゃなくていいんですか?」
「いつも一緒にいるわけやないで」
苦笑した先輩は、そのままならたいした美形なんだけど。
「それより、首にタオルはないんとちゃう?」
この性格さえ改善すれば、それこそほぼ完璧な人間になるんじゃないだろうか。
すぐににやにやとした笑い方に切り替えた忍足先輩に思わずため息をつくと、亮にも苦笑された。
「だから言ったろ、やめとけって」
「じゃあ、亮は私があせもになってもいいって言うの?私の肌の弱さ、知ってるよね」
「そりゃそうだけどよ」
「ごめんね、見てくれよりも実際問題にかかわる方が大事なの」
にっこり笑ってそう言うと、亮は仕方ないというようにため息をついて私の頭をはたく。
「汗かいたらこまめに拭けよ」
「承知」
にっと笑ってうなずいて、後はもうみんなの話を聞きながら黙々とご飯を食べる。
テニスの話はわからないし、早く食べて部員のデータを覚えたいし。
「畑岡の 」
「ごちそうさまでした。亮、先戻るね」
「ん」
「え、もう?まだ話そうよ」
驚いてる鳳君にひらひらと手を振って、お盆を持ち上げる。
「それじゃ、また後でね」
明日まで会うかどうか微妙だけど。
心の中でこっそりそう付け足して廊下を歩いていると、後ろからもう1つ足音が聞こえてきた。
誰だろうと振り向くと、何故か日吉が仏頂面で近づいてくる。
「早いね」
「無駄話をしなきゃ、普通はこれくらいで終わるだろ」
「そう?」
私は結構頑張って食べたんだけど。
「まあ、日吉は男の子だしね。早くて当たり前か」
ちょっと悔しい気もするけど、それは男女のどうしようもない差というものだろう。
何を話すわけでもなく並んで歩いているだけ。
それだけでも少し緊張するくらいには、乙女回路が発達してきたらしい。
ほどなくして曲がり角にさしかかった時、日吉が突然呟いた。
「ちょっと待ってろ」
「え?」
呟いたと言うより、むしろ私に言った?
ちょっと、何なの?
足早に廊下を行ってしまう日吉に訳がわからず呆然としていると、さほどしないうちにまた足早に戻ってきた。
「ほら」
「……何これ」
「発疹に効く薬だ。出たらつけろ」
……どうやら、さっきの亮との話を聞いていたらしい。
確かにありがたいけど、日吉は大丈夫なんだろうか。
そう思って見上げると、日吉が小さく苦笑した ように見えた。
「俺は大丈夫だ。元々母親が念のために持たせたものだから」
「そっか。じゃあ、ありがたく使わせてもらうね」
病院でもらう、チューブ入りの薬。
市販のを使っていないあたりが日吉らしいと思いながら、小さく笑ってそれを受け取った。
「でもさ、もし発疹が出たら言ってよ?あれって早めに治さないと酷いことになるんだから」
「わかった」
生真面目にうなずいた日吉に手を振って別れ、足早に部屋に戻る。
さて、お風呂に行くまで資料を見てますか。
「さん あれ」
「寝てるな」
「どうしましょう、宍戸さん」
「ほっとけ。後でまた起こしに来ればいいだろ、どうせ風呂はあとこいつだけなんだし」
「そうですね」
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