兄貴だって数秒なら押さえられるようになりました。
悪いか!








ガブリエルと嵐の日々









結論から言うと、日吉にもらった薬は大活躍した。


「かゆいかゆいかゆい痛い」


関節の内側と襟足に、びっしりとできた発疹。


あせもじゃないんだよね、これ。
汗が引き金になって出てくる、急性発疹。


明日あたりは脚全体に出てきそうだと思いながら、丁寧に薬を塗りこんでいく。


、薬   酷いな、それ」
「まあ、夏場は珍しくないんだけどね。今回はうっかりしてたというか」


いつもは出るのがもう少し後だから、去年のは使いきってしまっていた。
その上、あんなに急に今回の参加が決まったんだから、薬は用意できなかった。


……治療費、跡部先輩に請求したら駄目かな……。
絶対許されると思う、ていうか許されなければ嘘だ。


ほとんど無理矢理連れてこられたんだから、それくらいの意趣返しはありだろう。


「毎年こうなるのか?」
「夏場の暑い時にはね。汗が原因みたいなものだし」


だらりと腕と脚を伸ばしながら日吉を振り向いて、その肌にできた赤いものに気づいた。


「あれ?日吉も発疹出てるじゃない。ちょっと見せなよ、薬塗るから」
「自分でできる」
「いいって、そこ塗りにくいよ?今更恥ずかしがるようなもんじゃないでしょ」


何故かかたくなに拒否する日吉をほとんど無理矢理引っ張りこんで、太股の裏側の状態を見る。
うわ、私ほどじゃないけどなかなか派手。


「他には?」

「……いや」
あるね。どこ?」


微妙な間が怪しすぎた。


しくじったとでも言いたげな表情の日吉の肩をがっしとつかんで、嘘は許さないとばかりに顔を近づける。


あー、意外と肌荒れてるんだ、日吉。
色白だけど、だから余計に目立つというか……。


そんな余計なことを考えながら、さあどこだとばかりに睨みつける。
そのまましばらく睨みあっていたら、日吉が根負けしたように舌打ちをした。


「……背中だ」
「そ。じゃ、見せて」
「は!?」


何言ってんだと言いたげな顔で日吉が思いっきり眉を顰めたけれど、こっちこそ何言ってんだ、だ。


「背中なら余計に自分じゃ塗れないでしょ。いいから後ろ向く!」
「うわっ……!」


力任せに後ろを向かせ、問答無用で服をはがす。
結構広い範囲に出ている発疹に、思わず眉根が寄った。




「日吉……こんなになる前にここに来なよ」
「……大丈夫だと思ったんだよ」




日吉曰く、お風呂で鳳君にびっくりされるまで、まさかそこまで酷くなっているとは思いもしなかったとか。
……馬鹿だ、こいつ。


「あーもう、こんなになったら治すのも一苦労じゃない!」


これでもかという程にチューブを押し出して、遠慮なくべたべたと全面に塗っていく。


「あんた達はただでさえ汗かきやすいんだから、私に薬をくれるくらいだったらこまめに汗拭きなさいよ!」


自分でも悪かったと思っているのか、日吉は無言でおとなしくしたままだ。
けれど背中に塗り終えて他にもないか調べようとしたら、いきなり我に返ったように暴れ始めた。


「ちょっ、おとなしくしろってば!」
「馬鹿かお前は!」
「馬鹿とは何だこら!」



「どうでもいいけど、外まで聞こえてんぞ」
さん、それはちょっと……」


「ちょうどよかった鳳君、ちょっとこの馬鹿押さえといて」


気づかなかったけど一応ノックはしたんだろう(亮はノックを忘れるほど礼儀知らずじゃない)、かなり呆れた顔で亮と鳳君が立っていた。
いいところにと鳳君にお願いをすると、何故か顔を赤くされる。


「……あのさ、さん。今どんな状況に見えるかわかってる?」




……ん?


冷静に見直してみた。




「……ごめん。兄貴に対するノリになってた」
「……ああ」




ものすごく気まずい空気になってしまった……。


やっぱり、膝で押さえ込んだ上に服をひっぺがそうとしたのはよくなかったか。
少なくとも、好きな相手にするようなことじゃない。


「まあそれはおいといて。日吉、本当に他にはないの?」
「大丈夫だ」
「じゃ、いっか。薬も返すね」


かなり減ってしまった薬を渡そうとしたら、かぶりを振った日吉に押し戻された。


が持ってろ。お前の方が酷いだろ」
「でも、元々は日吉のものだし」
「俺はすぐに治る方だ。また酷くなったら借りにくる」


いいから持ってろと握らされて、そこまで言われて断る気にもなれずに引き下がる。


「……あんまり我慢しないでよ?かけばかくほど悪化して、最悪跡が残るんだから」
「わかってる」


当たり前だとうなずかれたけど、どうにも無理をしそうで信用できない。


「鳳君、無理してるみたいだったら、問答無用でここに引っ張ってきて」


多分一番日吉と仲がいいだろう鳳君に真顔で頼むと、苦笑してうなずかれた。
その隣で日吉が余計なことをしやがるみたいな顔をしてるあたり、やっぱり頼んで正解だったんだろう。うん。


「で。あんたらは何の用?」


お揃いで何があったんだろうと首を傾げると、鳳君がぱっと笑顔になった。


「そう!クッキーをもらえないかと思って」
「クッキー?」


そういえば、来るときのバスの中でそんなことを言われたな。
てっきり、社交辞令だとばっかり思ってた。


「ちょっと待ってね」


薬でべとべとの手を洗って、鞄の中から大きいタッパーを引っ張り出す。
どさりとテーブルの上に置いたら、鳳君がものすごく嬉しそうな顔をして、亮がものすごく呆れた顔をした。


「いくら何でも持ってきすぎだろ」
「うん、私も思った。でも、家に置いといても湿気るだけかと思って」


ここならその気になれば消費隊はいくらでもいるし?
目線だけでさっそくつまみ始めている鳳君を指したら、亮も苦笑する。


「ま、そりゃそうだな」


言いながらタッパーに手を伸ばした亮が、ふと日吉の方を見た。


「お前も食べるか?昨日も今日も夕飯あんまり食ってねえだろ」
「っ、宍戸さ   !」


日吉が慌てたように大きな声をあげたけど、そんなことよりも亮の言葉の方が気になった。




   え?」




昨日も今日も、日吉は私と同じくらいの早さで食事を終わらせていた。
男はそんなものかと思っていたけれど、もしかして他の人はおかわりとかをしてるんだろうか。


……してるか、間違いなく。
あの量じゃ足りないだろう、私でちょうどいいくらいなんだから。


「日吉、わざと一緒に終わらせてたの?」


試しに訊いてみると、無言でふいと目をそらされた。
よく見ると耳が赤い。


これってもしや、照れてる?