意外な君の姿を発見して、何だか少し不思議だった。
顔を赤くしたり、焦って声を荒げたり。
……あんたってそんなにあからさまに気を遣う奴だっけ?
ガブリエルと嵐の日々
真っ赤になった日吉は、そのままずかずかと部屋を出て行ってしまった。
後に残された私達は、何となくテーブルを囲んでクッキーをかじり始める。
「で。亮、本当なの?」
「少なくとも、普通の部員よりはずっと少ないぜ?あんなんじゃ絶対足りねえって」
「そうですよね。俺も時々一緒に学食行ったりするけど、もっと食べてるよ」
鳳君まで証言してくれれば、もうほとんど確定したようなものだ。
日吉が実は気を遣う奴だとは知っていたけれど、こんなにあからさまに遣われたのは初めてで少し戸惑う。
……何か悪いものでも食べたんだろうか、日吉。
食事を考える限りじゃ、何もそれらしきものはないけど……。
「まあ、日吉も色々考えてんだろ。はほぼ無理矢理巻きこまれたようなもんだし」
「まあ……確かに、跡部先輩の陰謀だもんね」
それにしても、どうして榊先生はこんな素人のマネを許したんだろう。
跡部先輩が妙な入れ知恵をしたんだろうか。
「あ、これ味がちょっと違う」
「ああ、それ?ナッツの代わりにちょっと香辛料入れてみたの」
初めてだったからちょっと不安だったけど、鳳君はおいしそうに食べてくれた。
よし、次からはバリエーションに追加しよう。(都合よく実験台になってくれたことだし)
「日吉は本当に真面目だねえ」
「将来苦労するよな、あいつ」
「性格もちょっときついですしね」
「そうそう」
「多分日吉、さんが心配なんだよ。この前もものすごく無茶したし」
みんなで好き勝手に日吉の評価をしていたら、そこで鳳君にじろりと睨まれて、思わず肩をすくめる。
「あれは本当に平気だったんだってば」
「宮崎のジイさんに雷落とされたっておふくろから聞いたのは、俺の気のせいか?」
「げ……」
恐るべし母親ネットワーク、そんなことまで伝わってるのか……。
亮にも睨まれて、何だかいたたまれなくなってきた。
何とか話題を変えようと、無理矢理元の流れに戻す。
「それより、どうして日吉がそれで心配するのよ」
「阿呆か」
即行突っ込まれた(意味がわからない)
「自分のせいであんな目に遭ったんだよ、今度はどんな目に遭うかもしれないって不安になるじゃないか」
鳳君にまでそう言われ、そんなことは気にしてないと言ったのに、と少し怒りたくなる。
「それは気にするなっていったはずだよ、第一他の約束でチャラにしたし」
「約束?」
「レギュラーもぎ取ってみせろって約束」
かなり厳しい約束だと承知でうなずかせた、あの約束。
日吉はちゃんとレギュラーになってくれるだろうか。
そう思いながら言った瞬間、亮が目を見開いた後に爆笑した。
「なるほどな!だからか」
「は?何がよ」
ひいひい言いながら目尻に浮かんだ涙をぬぐった(絶対に笑いすぎだと思う)亮は、おかしくてたまらないと言うように天井を仰ぐ。
「最近の日吉だよ。いつもに増して妙に熱心だと思ったら、お前とんな約束してたのかよ」
「……そうなの?」
知らなかった。
今までテニス部の練習風景なんて見たことがなかったから。
ずいぶんとストイックに練習をしているとは思ったけれど、まさかそんな変化があっただなんて。
「夕飯の後もこっそり練習してるぜ、あいつ」
「本当に熱心ですよね、日吉」
あれは真似できないと、鳳君が心底感心したようにうなずいた。
無理してないか後で見に行ってやろうと思いながら、またクッキーをつまむ。
「ふうん……そういえば、3軍の話だけど」
「ん?」
「もうちょっとコートで練習させてあげたら?実力至上主義なのはわかるけど、あんな基礎トレだけじゃ試合の勘が身につかないと思うけど」
素振りや体力作りも確かに大事なことだと思う。
だけど、実際に試合をしなければわからないこともあるはずだから。
「どうせみんな、ちゃんとしたところでレッスンを受けてるんだからって考えなんだろうけどね」
それ以上口を挟む気はさらさらなかったから、跡部先輩に伝えておいてと適当にお願いする。
亮も適当に答えて、3軍の様子を思い出しているようだった。
「まあ、3軍なんて応援要員みたいな感じもあるからなあ。一応跡部に言っとく」
「よろしく。あいつらも応援したくてテニス部に入ったんじゃないでしょ」
「ま、それもそうだな」
ひょいと肩をすくめた亮にうなずいて、さっきからもりもりと食べている鳳君の手元からクッキーを取り上げる。
「あっ!」
何やら悲痛な声が聞こえた気がしなくもないけれど、そこら辺は無視だ。無視!
「食べすぎ!」
「だって、おいしいんだもん!」
「褒めても駄目!」
もん、とか可愛く言っても駄目!
ぴしゃりと言って、さっさとクッキーをしまう。
「また明日ね。夜に食べると胃がもたれるから」
これは本当に、合宿中でクッキーが全てなくなりそうだ。
それを聞いた瞬間に目を輝かせた鳳君に苦笑しながら、そんなことを思った。
「でもさ、さんって本当にお菓子作るのうまいね。前にもらったマフィンもおいしかったし」
「料理はあんまりできないけどね。お菓子は材料全部入れて混ぜて焼くだけだから」
「そんな、乱暴な……」
「いや、本当に」
微妙な味付けも必要ないから、本当に簡単。
「の料理、そういえば最近食ってねえな」
「亮んちにもあんまり行ってないしね」
「おふくろがまた来いっつってたぞ」
亮の家に行ったのは、髪を切られたあの日が最後。
その前もずいぶん間が開いてたな、そういえば。
「今度また、顔出すよ。ついでに気が向けば料理もしようかな」
「あ、その時は俺もお邪魔したいな……なんて」
遠慮がちに手を上げた鳳君の顔には、料理を食べてみたいと正直に書いてある。
思わず吹き出しそうになるのをこらえながら、食い意地の張った(行動だけは)可愛い友人にうなずいた。
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