では、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。何なら新しいものを作らせても構わねえぜ?」
「全身全霊をもってお断りさせていただきます」


そんな金の無駄遣い、許せるものですか。
それより、そんなものが数日で作れるのかしら……。


















こんなに短期間で学園祭を企画・実行するのは無茶だと思っていたのは、私だけではなかったらしい。


「無理だよね、どう考えても」
「無理無理。うちの担当のバスケ部なんて、もう適当に3on3とかでよくね?とか言い出してるし」
「あれ?そこって確か、本館の中だよね、スペース」
「そう。ほんっと馬鹿ばっか」


馬鹿、に思いっきり力を入れて吐き捨てた立海の彼女は、だむ、と横の木を殴った。


「まあまあ、抑えて抑えて」


野外ステージ裏のスペースは、初日に偶然見つけた穴場。
どの委員も(特に女子は)部員との接触に慎重な人が多いし、自然と少数で集まりながらお昼を取るスタイルになった。


さんはテニス部担当なんだよね」
「大変でしょう、テニス部はどこも人気があるものねえ」
「うーん……実は私、ファンクラブ全体の推薦を受けてるのよ」


妙に同情的な視線に戸惑いつつ、諸悪の根源を打ち明けてみる。
案の定ひどく驚かれた。


「私、テニス部に欠片たりとも興味がないのよ。だかららしいんだけど……本当は参加するつもりもなかったの」


彼女達は本当に学園祭に参加したくて立候補した、正統派の運営委員。

その心象を悪くすると後々面倒なことになるから、申し訳なさそうに苦笑する。
実際問題、申し訳なく思ってはいるし。
適当な気持ちで参加しているスタッフがいるのは、やっぱり気分のいいものではないだろう。


「でもさん、ものすごく一生懸命やってくれるじゃない」


青学体操部付きの子がそう言ってくれると、他の子も次々にうなずいた。


「成り行きはどうあれ、さんはちゃんと仕事してくれてるもの。そんなの関係ないじゃない」
「ありがとう。いい学祭にしようね」


力強く微笑んで、お互いに励ましあって。
委員同士の関係は良好で助かった……。




とか考えていたら、何やらやってきましたよ。




   ごめん、邪魔しちゃったかな」


そう、不二君。

他の人との接触はそれとなく避けられるのに、この人だけは何故か毎日2人きりで話をする機会がある気がする。
困るのよね、この状態。


今はまだ立ち上げの時期だから、頻繁に相談があっても不思議じゃない。
けれど、それがいつまでもつづいたら   


「不二君。喫茶店のことで、何か問題でも?」
「ああ、そうじゃなくて……昨日、カーテンについて乾に何か言ってたみたいだから」


ちょっと気になったのだと、不二君は照れたように笑う。


「私一人で大丈夫だよ、加工は大変じゃないから」


というか、これ以上私に不必要に近づかないでください。
そんな気持ちをひた隠しにしてにっこりと笑うと、不二君は何とも言いがたい表情になった。


「……さん、無理してないかい?」
「別に?できることをできる範囲でやってるだけだけど……。それより不二君、この後喫茶店の打ち合わせがあるんだから。ちゃんとお昼は食べておいてね」


一緒に食べましょうと言わないのがポイントだ。
ここにいる子達はむしろそういう事態を回避したくて集まっているから、恨まれる心配もない。

まだ何かを言いたげだった不二君は、結局口を閉じて踵を返した。












「……で。何ですか、これ」


目の前にずずいと出された危険な色をした飲み物を見て、思わず半眼で突っ込んでしまった。


「健康にいいスペシャルドリンクだ」


大真面目に(けれどどこかおもしろがっている節がある)乾君と、相変わらず読めない笑顔をしている不二君。

2人に訊いても意味がないと悟ったので、げんなりしている越前君に訊いてみた。
向こうで部員達が真っ青な顔をしているし、どうせろくなものじゃないだろう。


「……飲めば、わかる」
「その表情だけで結構です、越前君。   乾君」


あからさまに飲みたくありませんと語っているのを見るだけで、どんな代物かはわかった。
逆行眼鏡を見すえて、真顔で一言。




「却下です」




向こうで部員の悲鳴があがった気もするが、とりあえず放置。
不満げな表情で乾君が首を傾げる。


「何故だ?栄養バランスを考慮した、非常に効果のある飲み物だぞ」
見た目からして却下です。何ですかそのチャレンジャーな色は。どうしても商品として出したいと言うなら、自分で全部一気飲みして、笑顔で『おいしい』と心から言ってください」


一気に言い切ると、乾君の表情がはっきり引きつった。


……自分が飲めないようなものを商品にしようとするんじゃないわよ。
人体実験が好きなのはわかったから、売り上げを伸ばす妨げをしないでちょうだい。


キャラが崩れていようが何だろうが、運営委員としてこれだけは絶対にゆずれない。
後でフォローのしようは何とでもある、まずは目の前のこの馬鹿をどうにかすることが先決だ。


「しかし   
却下と言ったら却下です。自分の研究欲求を満たしたいなら、ご自分が実験体になってください。集客を目的としているこの状況でそんなことをされると、はっきり言って営業妨害です」


学園祭を思うあまりの暴言だったと言い張れば、これくらいまでは許容範囲だろう。
本当はまだまだ言い足りないけれど、それ以上何かをいうのはやめておいた。

言い返せるならいって見ろとばかりに乾君を見上げると、乾君と不二君以外の部員から何やら尊敬のような目で見られる。
……普段の練習風景が、何となくわかった気がした。


部員で実験するのはやめなさいよ、乾君。