昨日に引き続き、今日も喫茶店関連。
この2人を一緒の配置にしたのって、もしかしなくてもとんでもなく失敗だったんじゃないだろうか。


手塚君も傍観してないで止めなさいよ、この人員配置!








舞台裏の沈黙









「ですから、この軽食も却下です!!どうしてわからないんですか、こんなもの普通の味覚の人じゃとても食べられたものじゃありません!」
「おいしいのになあ……」
「それは不二君に限ったことでしょう?常識的に考えて、唐辛子は調味料の一つです」


まかり間違っても、味のメインになるような代物じゃない。
目の前に置かれた真っ赤なメニューを一瞥して、また私の仕事が増えたと頭が痛くなった。












昨日のドリンクメニューにボツを出した後、値段が安くて納得がいく味のコーヒー豆を探しに、コーヒー専門店を何件か回った。
他にはオレンジジュースと炭酸類、紅茶のティーバッグ。

紅茶は長時間保温するのが難しいから、残念ながらティーバッグで妥協した。


越前君も何か手伝うと言ってくれたから、彼には今日中にイメージにあう食器類のセットを倉庫から選んでもらうことにしてある。
初日に使いそうな備品は写真を撮って一覧にしてあるから、その中から選んでもらうだけ。
イメージがつかみにくかったら倉庫で実際に見てみてね、と言っておいたから、とんでもないものを持ってくることはないだろう。


「今日は軽食のメニューを考えるのか……」


考えただけでげんなりしてきた。
何でこう、喫茶店だけこんなに手がかかるんだろうか。

ため息をつきながら書類を処理して、さてもう仕事はないなと伸びをして   


「っといけない、綿菓子屋の配線を持って行かなきゃ」


予想以上に屋台が広かったらしく、始めに用意したのでは少し足りないと言われていたのを忘れていた。
慌てて立ち上がって、早足で倉庫に行くと。


「不二君、またいたの?」


何故かまた不二君ががさごそやっていた。


「ああ、さん。越前がお皿を割っちゃってね、その代わりを   
「割った?それ、どの模様のもの?」


冗談じゃない、確か備品にはものすごく高いものもひっそりと紛れていたはずだ。
ここに無造作に放りこんでおくぐらいだから破損しても大丈夫かもしれないけれど、弁償しろと迫られたらどうしよう。
瞬時に頭の中でそろばんを用意しながら一覧を見せてもらうと、さほど高くないもので一安心。


「後で委員長に報告しておくね。それで、お皿は見つかった?」
「それが、どこに何があるのかよくわからなくて……」


照れたように笑った不二君に微笑して、ナンバリングした備品の場所をメモしてある手帳を取り出す。
ええと、M-513JNだから……。




「……それ、もしかして備品を全部書いてあるの?」




呆然としたような不二君の声に顔を上げると、信じられないといった表情にでくわした。


「ええ、もちろん」


調べるのは骨がおれたけれど、やっておいた方が絶対に効率がよくなるのだから。
初日に夜までかかって整理しましたとも。


「すごいね……」
「そう?」


私にとっては自然なことだったから、特に感慨もなく首を傾げた。
一番上の段の箱を下ろそうとしているんだけれど、あとちょっと身長が足りなくて安定しない。
一度入口の方から椅子を持ってこようと手を下ろしかけたところで、横から腕が伸びた。


   これ?」
「……あ、ええ」


その数cmをクリアした不二君が、危なげなく箱を床に下ろす。


「……ありがとう」
「どういたしまして。6枚くらいあればいいかな」
「割ったのは1枚なんでしょ?それだけあれば十分じゃないかしら」


当日に割れるかもしれない分を考えても、予備として十分だろう。
配線の方はごちゃごちゃとした区画に置いてあるので、ちょっぴり無理やり段ボールを引っ張り出す。

……お互い圧迫しあってるから、後でちゃんと元通りに入るかどうかが心配だ。


さん、あった?」
「ええ、多分この長さでだいじょ   




   危ない!!




腰をかがめて覗き込んでくる不二君を反射的に突き飛ばして、その直後に後頭部に鈍い衝撃。
そして意識が暗転した。












   さん!さん!!」
「っつ……」


ずきずきと痛む頭を抑えると、くらりと視界が揺れる。


「動かないで。荷物が頭を直撃したんだから」

「ふじくんは、ぶじ……?」
「僕は大丈夫だよ」


安心させるように微笑んだ不二君は、けれど次の瞬間には表情を険しくさせた。


「僕なら声をかけてもらうだけで大丈夫だから。これでも鍛えてるんだし、反射神経も悪くないよ」
「でも、テニスをする大事な身体でしょう……?」


選手生命に関わるような怪我、万一にもさせるわけにはいかない。


「大丈夫。さんが怪我するよりも、ずっと軽くて済むから」


とにかく保健室へと促されて、肩を貸そうかという申し出を丁重に断ってゆっくりと歩き出した。
揺れる視界と定まらない足下をだましだまし、かなり時間をかけてたどりついた保健室には、運悪く誰もいなかった。


とりあえずベッドに寝転がった私の布団を直しながら、不二君がまっすぐに私を見すえる。
それはどこか、確信的な視線でもって。


さん」
「何?」


「さっきので、やっぱりわかった。   君、本当はおとなしくなんかないだろう?」


僕をかばった時の表情。
その後の冷静な受け答え。
そして、ここまで1人で歩いてくる精神力。
どれをとっても、あの写真の中の姿が真実なのだとしか思えない。

淡々とそう告げられて、自分の失態に強く目を瞑った。


   ゲームオーバーだ。


完璧なる敗北。
もうこれ以上、この勘の鋭い少年を欺き続けられない。


観念して大きく息を吐いて、自嘲気味に唇をつり上げる。


「……ご名答。面倒なことになりたくないと思ったから、差し障りのないキャラを作ってたんだけど   他の人には言わないでね、私は平和な学校生活を心から望んでるの」


これ以上事情を知るものを増やさないでくれと念を押すと、意外にもあっさりとうなずいてもらえた。
危ないところを助けてもらったのだからと彼は笑うけれど、その真意がいまいち見えなくてちょっと不気味だ。


とにかく今は、これ以上ばれないとわかっただけで満足しておこう。
釈然としない心を無理矢理押さえつけて、引き上げた布団の影で溜め息をついた。