とうとう知られてしまった、か。
ごまかしきれるか際どいところだとは思っていたけれど、こんなに早く見抜かれるのは想定外。
次の策を早めに打って、これ以上大事にならないようにしなければ。








役にも立たない役回り









うかつにも気絶するという失態をおかしたあげく、あまつさえキャラ作りを見破られるという屈辱。
自分の情けなさに憤死しそうだったけれど、それをこらえてどうしようかと考える。


不二君は必要がない限りは容易に人にもらさないと思うけれど、やっぱり一抹の不安がある。
そんな事を考えながら通路を歩いていると、横から声をかけられた。


さん。ちょうどよかった」
「不二君?」


思わず微かに身構える。
そんな私に気づいた様子もなく、不二君は小さく小首を傾げた。


「これから喫茶店の買い出しに行くんだけど……一緒に来てくれないかな」
「荷物持ちなら男同士の方がいいと思うけど……」


周囲に人はいないけれど、どこで聞かれているかわかったものではない。
言外に巻き込むなと含みながら首を傾げ返すと、不二君が苦笑した。


「そんなに重いものは買わないんだ。問屋の場所がよくわからないし、交渉してもらえたらと思って」
「ああ……そういうことなら。ちょっと待ってね、この書類だけ手塚君に渡してくるから」


ついでに推薦問屋のリストも持ってこなければ。


あれこれ考えながら雑用をこなして、気がつくと20分くらい不二君を待たせてしまっていた。


「お待たせしました」
「気にしないで。そんなに待ってないよ」


爽やかに笑う不二君に、ついと背中が寒くなる。
そんな内心をおくびにも出さず、私も安心したように微笑んだ。












人が行き交う商店街。
そこから2本ほど奥に入ったところが、意外にも問屋の集中している通りだった。


「こんなところだったんだ」
「私も驚いたわ。意外と身近にあったのね」


だからこそ、わざわざこの場所を選んで会場にしたのかもしれないと、そんな事も考えた。

問屋との交渉は基本的に直接顔を合わせてというのが当たり前だ。
そうなるとあまりに遠い場所に問屋があるのでは大変だろう。


「さ、こっちよ」


リストと実際の店舗を見比べて、目をつけておいたお店へと向かう。


買い出しに行くとわかった時点で、あからじめ榊先生に話を通してもらっておいた。
学校名と名前を名乗ると、主人は軽くうなずいて椅子を勧めてくれる。
あれこれと希望の食材と金額を申し出ると、主人はあからさまに難しい顔をした。


「それは……難しいですね」
「そこをなんとか」
「ですが   


隣で不二君が唖然としている気配がする。
それはものすごく貴重なもののような気もしたけれど、今はそんなことに構っていられなかった。


「あの、   
「ちょっと黙っていてくれる?ごめんなさい」


おそるおそる口を開いた不二君にぴしゃりと言って、頭の中のそろばんを猛烈な勢いで弾く。
まだ駄目、いくら珍しい野菜だからって、いくらなんでもこれはぼったくり。


「もう少々」
「そうですね、では   


大体、乾君が妙なものを作りたいと言い出さなければ、こんな苦労はしなくて済んだはずなのに。
あまりに粘られるから危険なドリンクも激辛メニューも妥協したけれど、食材集めに苦労するとわかっていたのだろうか。
個人的な趣味で作るのとは規模が違いすぎるんだから、そのあたりも考慮してほしい。


私たちのやり取りを見て目を丸くしている不二君に少しいらつきながら、ようやく許容範囲におさまった金額にうなずいた。


「ありがとうございます。配送は9月1日午前、代引きでお願いします」
「わかりました」


一応控えとして取引内容の写しをもらい、休憩しようとの不二君の提案で喫茶店に入る事になった。


「すごかったね、さん」
「元の値段が少し足下を見られてたのよ。学生相手だと思って油断したんでしょうけど、私も卸の相場を調べてたから、ね」


むしろ低価格におさえてみせたというわけだ。
なめてかかるからこうなるのよ。


「珍しい素材は使わないでくださいってお願いした意味、わかってもらえた?」
「ああ。キロ単位で注文するとなると、あんなに大変なんだね」


苦笑した不二君が素直に頭を下げる。
仕入れ先に在庫がないかもしれないと渋る主人を説得した現場は、やっぱりそれなりに衝撃的だったらしい。


「もしも配送ミスがあったら、当日のメニューそのものにも影響してくるのよ。自分の好きなものを作りたいのもわかるけど、こういう対外的なイベントでは我慢してね」
「今度から気をつけるよ」
「それにしても、どうしたら違和感なくメニューに組み込めるかしら……」


こんな殺人的なメニュー、普通に考えて需要はとてつもなく低い。
利益も少なくなってしまうだろう。
悩んだが、いい考えも浮かばない。


これはむしろチャレンジャーしか挑戦しない……。




ん?挑戦?




「……挑戦メニュー」
「挑戦?」


「乾君のドリンクと不二君の料理、チャレンジメニューにしちゃうのよ」


そうすれば、あえて挑戦してみようとする人もいるだろう。
どうしても割高になるその値段も、チャレンジという事にすれば納得してもらえるだろう。


「うん、それなら……いけるかも」


口元に笑みが浮かぶのが、自分でもわかった。


本当にもう、私には何の利益もないのに。
こんなに必死になったのなんて、本当に久しぶり。


「やってみましょう」


できると踏んだ。
踏んだからには、成功させなければ。


どの程度まで過激なメニューを抑えられるかで、勝敗が決まりそうだ。
この分では不二君の説得に問題はないだろう。


乾君はどうやって言いくるめようかと考えただけで、頭が痛くなった。