何とか仕入れの目処もたった。
どうなることかとひやひやしたけれど、これなら多分大丈夫。
せめて今日だけは息抜きをしようと、一人こっそりため息をついた。
そんな朝の自分の呑気さが恨めしい。
拒絶
「おはよう、さん」
「おはようございます、大石君」
十字路で大石君に会って、少しはにかみながら丁寧にお辞儀。
会場まで一緒に行こうと誘われて、「おとなしく控え目な」私が断りきれるはずもなく。
「それにしても、昨日は大変だったね」
「そうですね。皆さんにもご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい」
「いや、気にしてないよ。さんこそ、あんなに一生懸命動いてくれてありがとう」
そんな会話をしながら会場に着いて、今日も頑張ろうと励ましあって別れる。
午後からは慰労会だから、今日の作業は午前だけ。
準備に時間がかかるのは喫茶店だけだから、特に問題はないだろう。
それぞれの模擬店で最終確認をして、特に問題がないことに安心する。
これから明日からの2日間、無事に乗りきれそうだ。
お昼を急いで食べて、今度は屋内プールでの設営をお手伝い。
「これは?」
「あ、それは第2プール」
「おーい、男手!!このボード重くて動かせねえ!」
「ちょっと、飛び込み台の確認誰かやった!?」
「あ、私行ってくる!」
開始時間が近づくにつれて、みんな表情が鬼気迫ってくる。
危険な箇所は業者が入ってくれたけれど、細かい調整は運営委員の仕事だ。
私達がヘマをすれば、直接事故につながってしまう。
しかも、時間が足りない足りない。
「ああもう、何なのこの八艘飛びって!こんなのテレビでしか見たことないわよ!?」
「しょうがないよ、跡部委員長なんだし」
配置の難しさにいらついて怒鳴ると、卓球部の委員の子になだめられた。
「まあねえ、あの委員長だし……」
何があっても驚かない。
結局時間ぎりぎりで設営を終えて、ようやく裏手で全員休憩に入った。
「お疲れ様……」
「お疲れー」
ぐったりと床に座りこんでお互いを労いあっていると、遠くからものすごい歓声が聞こえてくる。
「始まったね」
「うん。楽しんでもらえればいいね」
競技者参加は体育会系の部活だけ。
文化系の人達にも楽しんでもらえるものになればいい。
「跡部委員長は見に来てもいいっつってたけど……どうすっかなあ」
一番動いてくれていた氷帝の男の子が呟くと、みんな行きたいけれど体力が追いつかないといった表情になった。
とりあえずは休めるだけ休んでおいて、時間が余れば見に行こうと勝手に結論づけると、水筒から冷たく冷えた麦茶を飲む。
「あ、それいいなあ」
「飲む?冷たいわよ」
うらやましそうに呟いた隣の委員にコップを差し出し、床に寝そべる。
むき出しの脚や腕にひんやりとした感覚が気持ちいい。
青学には水泳の授業がないから、思いっきりリゾート用のビキニしかなかった。
プールがあるのに水泳がないのはおかしいんだけど。
どうやら競泳用のものらしく、体育の時間に使うのには向いていないんだとか。
どう考えても設営には向いていないと思ったけれど、これしかなかったのだから仕方がないのはわかっている。
……わかってはいても、やっぱり微妙な気分になるのは仕方がないだろう。
今度からは普通の水着も買っておこう、そうしよう。
へばるだけへばってお菓子をつまんで、ようやく普通に動けるようになった。
せっかくだから会場の様子を見に行こうと、スタッフ用の入口からプールに出る。
その先では、騎馬戦に熱中する不二君がいた。
騒がれて、フラッシュをたかれて、まるでアイドルのコンサート。
見事に勝って、女の子達の歓声に笑顔で手を振る彼を見て、意味もわからず心にしこりが生まれた。
……あんな不二君、見たくない。
どうしてそう思うのかも考えたくなくて、そっとドアの奥に引き返した。
結局、個人優勝は不二君だったらしい。
人づてに聞いたからどういう感じでの優勝なのかはわからないけれど、今ここにやってきたご本人は少し不満そうだ。
「……さん、会場にいなかったよね?」
「え?ああ、私は設営で疲れ果ててたから、裏で休んでたのよ」
恨みがましく言われても、くたくたの身体を押してまで見に行こうという情熱がないんだから仕方がない。
ほんの少し見に行っただけでもたいしたものだと思っているのに。
「でも、少し見に行ったわよ」
「え?いつ」
「騎馬戦の時。活躍してたわね」
見たのはほんの一瞬だけど、嘘は言っていないはずだ。
小さく笑ってそう言った途端に、不二君が妙に機嫌のいい顔になった。
私が見ていたことが、そんなに嬉しいものだろうか。
ふと浮き上がった馬鹿馬鹿しい考えに失笑してかぶりを振り、まだ水着姿の不二君に首を傾げる。
「着替えたら?もう帰るだけでしょ」
「さんもまだ水着じゃないか」
「私はこの後、まだ片づけがあるから。もうそろそろ行かなきゃいけないのよね」
「ふうん……」
興味なさそうにうなずいた不二君が、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
「ちょっと待ってて」
「え?」
「いいから。ね?」
有無を言わせない笑顔で言い置いて行った不二君を思わず見送り、そんな自分に小さく突っ込む。
「……だから、何で律義に待つのよ」
ややして戻って来た彼の手には、紺色のTシャツ。
「これ、着なよ。そのまま水に入るのは、やっぱりちょっと……ね?」
「……ありがとう」
含みのありそうな言い方は正直少し癪にさわったけれど、ありがたいことは確かだ。
何が悲しくて、リゾート気分満載な格好で撤去作業をしなければならないのか。
好き好んで人様に見せるような体型でもないから、濡れても透けないこの色のTシャツは正直助かる。
複雑な表情で受け取った時の、妙に満足そうな彼の表情がまた癪にさわった。
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